第14章 それぞれの道(4)
日本に帰ったのは、大晦日。日本で一番忙しい日だった。
数日しか離れていなかったのに、懐かしい気がする我が家に戻ってみれば、中から聞こえてきたのは怒声だった。
「おらっ! 次はこっちだ。やるぞっ!」
トシの元気な声がして、バタバタと物が動く音が聞こえる。凄いな。
「ただい」
ま~と言いかけたところで、バタバタと足音がして彩乃が現れた。
「お兄ちゃんっ! レイラちゃんっ! おかえりなさいっ!」
嬉しそうに笑う彩乃の後ろから、総司とトシが現れる。落ち着いた雰囲気でデイヴィッドとジャック。それから李亮とそのお母さん。
「上手く見つけたみたいだな」
トシが言えば、
「良かったわね。マスター」
デイヴィットもにっと笑った。
ああ。本当に。無事に彼女を連れて帰ってこられてよかった。
「ただいま」
改めて挨拶をすれば、僕の横で恥ずかしそうにレイラが頭を下げた。
「心配かけて、ごめんね」
彩乃がぶんぶんと頭を振る。
「お兄ちゃんが悪いの。全部お兄ちゃんが悪いからレイラちゃんは謝る必要ないよ?」
「ちょっ。彩乃」
「そうそう。俊が全部悪いんです」
「え? 総司?」
「こいつをとりあえず殴っておいていいぜ?」
「トシまで」
「自分で振っておいて、ゾンビみたいになってたものね。マスター」
「デイヴィッド。ちょっとゾンビは言いすぎじゃない?」
「死体みたいだった」
「ジャックまで…」
僕は救いを求めて李亮に目をやれば、李亮がふぃっと目を逸らす。うわー。四面楚歌。
李亮のお母さん…には助けを求められないよね。ニコニコしながら彼の後ろにいて、皆のことを見ている。
「有縁千里来相会(縁があれば、遠く離れていても会えるのよ)」
静かな声で中国のことわざを言われて、僕は黙って頭を下げた。
「さっ。マスター。入って。まだお掃除の最中だけど」
デイヴィッドが言えば、総司とトシが僕とレイラの荷物を持ってくれた。皆に押されるように部屋の中に入って、驚く。
「何これ」
「模様替えだよ?」
彩乃が答える。部屋の中はなんだか和洋折衷になっていた。
茶の間にはローソファーが入っていて、白いローテーブルに、白いテレビ台がおいてある。それに窓際に揺れるレースのカーテン。
「もの凄いミスマッチなんだけど」
僕がつぶやいたとたんに、彩乃が睨んでくる。
「レイラちゃんが好きだと思ったから変えたの」
「え?」
「レイラちゃんが居やすいように、ちょっと洋風にしたの」
レイラが慌てたように彩乃に駆け寄った。
「彩乃? えっと…気持ちは嬉しいけど」
「だって、レイラちゃんの部屋、洋風にしてあったでしょ? このお家はどこまでも和風だから寂しいのかなって」
僕から見えるレイラの後ろ姿の耳が真っ赤になっていく。
「ま、いいんじゃない?」
僕の言葉にレイラが真っ赤な顔のまま振り返った。
「いいの?」
「うん。気持ちが変わったら、また変えればいいよ。たまにはこういうのも面白いし」
彩乃がにっこり笑って総司と視線を交わし、レイラが恥ずかしそうに、けれど嬉しそうに笑った。




