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第13章  わからない気持ち(2)

「おい」


 トシが声を発すると同時にがらりと障子を開けて、ずかずかと入ってきた。


「てめぇ、何してやがる」


 僕はのろのろとトシを見上げた。


「別に…何も」


 僕の返事はトシのお気に召さなかったらしい。トシは枕元に来ると、ばっと布団をはいで僕の胸倉を掴んだ。


「何もじゃねぇだろ。そんな死んだような目をしやがって」


 やれやれ。おせっかいだなぁ。本当に。


「放っておいてよ。何もする気が起きないんだ。本当に不思議なほどね」


 トシが大きなため息をついて、僕を乱暴に手放す。


「てめぇ。自分で自分のことがわかってねぇのかよ」


 何を言われているか分からずに、トシを見れば、彼はぐぃっと顔を僕に近づけてきた。


「ねぇちゃんが消えて、そんなに落ち込んでるってぇことは、てめぇも憎からず思っていたってことだろうが」


 思わず僕はぱちぱちと瞬きをしてトシの顔を見つめてしまった。


「レイラだよ? 僕のいとこだよ? あまりにも…なんていうか。近すぎるっていうか…昔はちょっとばかり付き合ったこともあるけど、でもなんていうか、付き合いが長すぎるっていうか…」


「おめぇな。女に惚れるのに時間の長短は関係あるか? 付き合いの長さなんて関係ねぇんだよ。一瞬にして相手を知ることもあれば、いつまで付き合っても平行線っていう場合だってある。長い付き合いでも、一瞬にして惚れることもあるだろうさ」


 僕は認めたくなくて、トシの言葉に耳を傾けないようにして俯いた。


「人を好きになるっていうのは、迷うことなんだよ。女を好きになるならなおさらだ。知ってっか? 女ってぇのは俺ら男とは違う生き物なんだぜ?」


 トシがぽんと僕の肩を叩く。


「難しく考えるな。単純に考えるのが一番なんだ。てめぇをここに足止めしている理由はなんだ?」


 僕は何も考えずにトシの言葉に応えた。


「彩乃が…」


「あいつには総司がいるだろ」


「レイラが望んでも、僕は子供を望んでない」


「そんなの、あのねぇちゃんと話し合え。世の中、子供がいねぇ夫婦だって山ほどある。それに子供嫌いでも自分の子供だったらかわいいって奴も山ほどいるぞ? どっちにせよ、そんなのは先の話だろ」


「それに…」


 僕は一生懸命、僕がレイラを探さない理由を考え始めた。なんだろう。どうして僕はここから動けないんだろう。


「トシのケガもあるし…」


 トシがまたしても大きくため息をつく。


「そんなのがおめぇの行動の邪魔なのか? 俺なんか放っておけよ」


「できないよ」


「しかたねぇな」


 トシの言葉が途切れる。部屋の中を沈黙が支配して、僕にとっては重苦しい雰囲気に感じる。


 トシがばりばりと頭を掻いて、ぶるぶるっと首を振った。


「しかたねぇ。だったら俺を眷族にでも何でもしていけっ!」


「トシ?」


 僕が怪訝な顔をして見れば、トシがにっと嗤う。


「いいんだよ。どうせ考えてたんだ。俺がいくら拒否しても、てめぇらが延命作業をやる限り、俺は死ぬことができねぇ。だったらよほどこんなところで、ぐだぐだと延命されながら生きているよりも、すぱっと前向きに生きたほうがいいだろうよ」


 僕は思わずじっとトシの顔を見てしまった。追い討ちをかけるようにトシが言う。


「で、残るてめぇの理由は?」


 一生懸命頭の中を探って…探って…もう何も出てこなかった。


「ほれ。行ってこい。探してこい」


「うん…」


 まだすっきりしない気分のまま、僕は布団を片付け始め…その間にトシは部屋から出ていった。


 探すって言っても…どこへ? どうやって? 僕の気持ちは、まだ後ろ向きのまま。そんな頭が動いてくれるわけがない。のろのろと畳に座って、どうしようかと俯いていたら、障子に人影が映った。


「お兄ちゃん。いい?」


「どうぞ」


 僕がのろのろと応えれば、彩乃がそっと申し訳なさそうに入ってくる。


「大丈夫? 調子はどう?」


 なんだかなぁ。


「体調は悪くないよ」


「うん…そうだと思うけど…気持ちは? 気分は?」


「あ~。まあ、なんかちょっと落ち込んでるけど…大丈夫」


 無理やり笑ったけれど、彩乃は騙されなかったらしい。


「お兄ちゃん。無理しないでいいからね」


 僕の笑みは思わず苦笑いになった。彩乃が僕の傍にペタリと座り込む。


「ね。お兄ちゃん。お友達に聞いたの。相手がどれだけ好きか自分を計る心理テスト」


「心理テスト?」


「うん。心理テストっていうか、なんか想像?」


 なんだそりゃ。


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