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第12章  それぞれの秘密・前編(4)

「宮月。おめぇ、なんか余計なことしやがったな」


 トシが床から僕を睨みつけながらも、元気な声を出す。はは。うまく効いたわけだ。やったね。僕は肩をすくめた。


「眷族になるのが嫌だっていうから、他に僕ができることをやっただけ。起きれるようだったら、血が足りなくなっているだろうから、血を飲めば?」


 顔をしかめながら、トシは身体を起こして…そして自分の胸を見て叫んだ。


「なんじゃ、こりゃっ!」


 あ~。さっきより気持ち悪い状況になっている。透明で一部泡だって白く見える液体が血と交じり合って、ピンク色の物体となっていた。それがふるふるとトシの胸の上で動いているんだ。なんかシュールな感じだ。


 なんだろう。何かに似ている。あれか。スライムか。ピンク色のスライムがトシの胸の上でふよふよ動いているのを想像できたら、それが目の前にある光景だ。


「一応、トシを助けようとした僕の努力の痕?」


「なんでおめぇ、疑問形なんだよ。それよりもこれ、大丈夫なのか?」


「何が?」


「動いてんぞ。俺、食われてるんじゃねぇのか?」


「いや。傷を治しているんだと思うんだけど」


「気味わりぃな」


 あはは~。もう笑うしかない。結局トシは、この僕の努力?が実って、一命を取り留めた。


 ただしすんなりと…とはいかなかった。どうやら僕の液体は、表面を治すことには長けているけれど、深い傷を治すのにはあまり向かないらしい。


 つまりトシの傷は一見癒えたように見えたけれど、無理をするとすぐに傷が開く。一応、ゆっくりではあるけれど、自力で治っている部分もあるようなので安静にしていればいいんだけど…。


 してないんだな。これが。トシはすぐに目を離すと普通に動きまわる。下手すると稽古をやろうとしたりする。まったく困ったもんだ。


 そして傷が開くと死にそうになって僕らで押さえつけて、例の液体(つまり僕の喉から出る液体)をかけるということを繰り返している。その度にトシはスライム塗れになる。懲りない上に不毛だ。


 一応、本人のために弁護しておくと、自殺をやってる気はないらしい。治ったって思うらしいんだよね。それでも普通に動いちゃダメだっていうのに、このぐらいならいいだろう…って思って動いて死に掛けるっていう状態。


 だからさっさと眷族になっちゃえばいいのに…。とは思うけれど、こればっかりは無理強いしたくない。長い時を生きるということを、肯定的に捉えるか、否定的に捉えるかは人によって違う。結局、寝たり起きたりを繰り返していて、家からは離れられない。それもどうかと思うけどね。


 トシの背中を押しつつ行ってしまった総司を見て、僕は思い出した。


「あ…近藤さん」


 そう。近藤さんの意識が戻ったっていう話と、記憶があったという話をすれば、少しはトシの考えも変わるかもしれない。…いや。無理だな。


 トシはトシだ。自分で納得しないと、周りがどう言おうと、どう変わろうと、本人は変わらないだろう。どちらにせよ、トシが長い時を生きる覚悟を、僕の眷族になる覚悟を決めなければ、僕らの別れはやってくる。それは長くても数年のうちだ。


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