間章 手伝い
------ 李亮視点 ----------
あの火事からすぐ、主達と共に日本家屋の家に引っ越した。
最初は一族たちと母も同じ家に住むように言われて、緊張して眠れない日々が続いた。いつ彼らが母を食料とするか分からない…と思っていたから。主のことは信じている。しかし他の人たちは良く分からない…というのが本音だ。しかしそれは杞憂だった。
皆、母に良くしてくれた。逆に何もせずに家にいて、食事もおやつすら出てくることに母のほうが恐縮している。
「何もしなくていいのかねぇ」
母が言う。
「いいと主が言っている」
そう伝えれば、母が嬉しそうに笑った。
「本当にいい人に出会えて良かったね。あの人はいい人だね」
主が、いい「人」と言えるかどうかは分からないが、母に対しては丁寧に接してくれて本当に感謝している。
「何かお手伝いしたいんだけれど、手伝うことがないか…尋ねてみてくれないかい?」
確かに部屋にずっと居るのも苦痛だろう。
母はアパートに居たころのように、日中は与えられた部屋の掃除と二人分の洗濯をし、暇があれば繕いものや編み物をしている。それでも時間が余るようだ。
「主に聞いてみる」
そう約束して部屋を出た。
「マスタ」
廊下で主を見つけて声をかければ、振り向いて笑った。
「やあ。李亮。どうしたの?」
大分、日本語に慣れたとは言え、まだ自分の言葉のたどたどしさは抜けない。
「母、何か手伝う、したい、言う」
主はちょっと考える仕草を見せた。
「そっか。そうだよね。何もやることが無いっていうのも暇だし…。じゃあ、食事を作る手伝いをしてもらえるかな。特に朝食が僕にとっては面倒でね」
「母、朝食つくる、嬉しい、思う」
「食事を作るときには、皆、手が空いているときには手伝ってくれるから、一緒にやってくれると嬉しいよ」
夕食は主がこだわって作っているが、朝食はいくつかのメニューが日替わりで出ていた。主はいろんなことをするのは好きだが、どうやら繰り返して同じことをするのは嫌いらしい。
「あ。そうだ。冷蔵庫の銀色のボトルだけは絶対に触らないように言っておいて。じゃ、よろしく~」
ひらひらと片手を振って、主は行ってしまった。
翌朝から母は朝食作りに台所に立つことにした。大勢の食事を作るのは大変だけれど、楽しいと言って嬉しそうだ。まるで子供がたくさんできたようだ、とも言っていた。
最近は、朝食だけではなく、夕飯も主と一緒に作っている。主は中国語が話せるから、母も自分の国の言葉で話せるのは嬉しそうだ。作れる食事の種類も広がったと言っていた。
そして主の見識の広さに驚いたようだ。
「若いのに、いろいろ知っていてびっくりしたよ」
そう言う母に苦笑いをするしかない。ここにいる半数がその外見とは裏腹に母よりも、実は年上なのだと知ったら、母はもっと驚くだろうか。それとも怯えるだろうか。
しかし…母なら…もしかしたら秘密を打ち明けても、受け入れてくれるかもしれない。そんなことを最近、考えるようになった。




