第9章 近藤さん(2)
数日前、あのホテルの一室で僕らは簡単な情報収集をして、作戦会議をした。
どうやら近藤さんがいるあのバーは、2つの暴力団がしのぎを削っている場所らしい。本来ならば縄張りというのはかなりきっちりと決まっているはずなんだけど、あの場所だけが両方から自分のものだと主張されているわけだ。
そのままなら、別に多少の嫌がらせで済んでいたのが、どうやらその二つの暴力団が抗争に入ったらしく、あの場所が1つの抗争点となっているわけだ。はぁ。面倒くさい。
作戦会議中、僕に割り当てられた馬鹿みたいに広いホテルの一室で、僕らは適当に円座になって座っていた。椅子を持ってきたり、床に直接座ったり。
「陣取り合戦だな。こりゃ」
僕の気持ちそのままに、床の上に胡坐を組んで座り込んでいる土方さんが唸る。僕は思いつくままに、対処方法を述べ始めた。
「その1、両方の暴力団を潰す」
彩乃がびっくりした顔をして僕を見る。レイラが眉を顰めた。
「冗談は止めて」
「やる必要があるなら、やるよ? 別に。上のほうの人間からどんどん消していけば、ある程度で潰れるでしょ」
人間を殺すことには躊躇を覚えるけれど、必要に迫られればやる。可能性として、しれっと言い返せば、急に寒気を感じたようにレイラは自分で自分の身体を抱きしめた。隣でで土方さんも苦虫を噛み潰したような顔をする。
「おめぇ、そりゃ、最後の手段だろ」
「マスターにかかるとアリをバズーカでぶっ放す」
土方さんの言葉にジャックが同意する。
「バズーカどころか弾道ミサイルを使いかねないわよ」
デイヴィッドまでが言い出した。失礼だな。可能性の話だけをしてるのに。とは言え、まったくやる気が無かったとはいえないので、そのままにして続ける。
「その2、その場所だけ別の組織の下に入れて、手を出せないようにする」
「別の組織?」
総司が尋ねた。それに対してレイラが答える。
「キーファーだったらツテがあるわ。ニューヨークマフィアとか」
デイヴィッドが両手を頬にやって、恐ろしいものを見たような顔をする。そのポーズ、まだやっているのか。女っぽいって教えたほうがいいかどうか、迷うところだ。
「日本にそんなのを引き入れるの?! 正気の沙汰じゃないわよ」
そのポーズでデイヴィッドに女言葉を使われると何か違う方向へ行っている気がするが、気にしたら負けな気がする。見なかったことにして肩をすくめた。
「ニューヨークマフィアぐらい、すでに入ってるんじゃないの? 知らないけど。別にどこでもいいし。すでに入っているところに、そのあたりを取ってもらえばいいんだけど」
「そう簡単にいくかしら?」
デイヴィッドが僕を横目で見た。
「僕はできそうにない可能性は言わないよ。ま、いいや。次、その3。両方の組織のトップに脅しをかけて手を引いてもらう」
…。何。この無言。総司がゆるゆると首を振った。
「どうかと思うのに、今までで一番真っ当に聞こえるのはどうしてでしょうね」
「ちょっと」
「しかも一番大人しい手に聞こえるのも不思議だわ」
レイラまで言い出す。
「お兄ちゃんが考えるのって、酷いのばっかり」
「こら、彩乃」
なんだかなぁ。
「そして最後。その4。近藤さんに移動してもらう。金がないなら、イギリスの投資会社から融資の形で貸してもいいよ。投資としては儲からないかもしれないけど、一族で巻き込まれまくるよりはマシだ」
そう言った瞬間に、土方さんが頭を下げた。
「すまねぇ」
「あ~。ごめん。別に土方さんを責めようとしたわけじゃないんだ。言葉が悪かった。頭を上げてよ」
土方さんが頭をあげたのを見て、僕は続きを話すべく口を開いた。
「一番穏便なのは、近藤さんに移動してもらうことだと思うんだよね」
「まあ、そうですよね」
僕の言葉に総司が同意する。
「土方さん、どう? 話を持っていってみない?」
僕の提案に土方さんは真面目な顔で頷いた。




