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第7章  教会(6)

「汝、沖田総司は、宮月彩乃を妻とし、良き時も悪しき時も、富める時も貧しき時も、病める時も健やかなる時も、共に歩み、支えあい、死が二人を分かつまで、愛することを誓いますか?」


 僕はゆっくりと後ろから歩いていき、そして最後のところで二人の前に立って総司のほうを向いた。総司が一瞬目を丸くしてから、ふっと笑って彩乃のほうを見る。


「誓います」


 僕は彩乃のほうを向いた。


「汝、宮月彩乃は、沖田総司を夫とし、良き時も悪しき時も、富める時も貧しき時も、病める時も健やかなる時も、共に歩み、支えあい、死が二人を分かつまで、愛することを誓いますか?」


「誓います」


 ちょっと震えた声で彩乃が返事をする。僕はにっこりと笑った。


「本当はここで指輪の交換なんだけどね。今日は本番じゃないし…無いから省略だね」


 僕の言葉に、総司が僕を見て、彩乃を見て、ごそごそとポケットから何かを取り出した。


「指輪の交換…じゃないけれど、気持ちだけ」


 そう言って彩乃の左手を取る。ぎこちない手つきで薬指に何かをはめた。彩乃の目が見開かれて、それを見て総司が満足そうに笑う。


「安物だけど…喜ぶと思った」


 そのとたんに彩乃の目に涙が浮かび始める。綺麗なシルバーのリング。薄い水色の石がついているのは、彩乃の誕生石であるアクアマリンだろうか。僕にも黙って用意するなんて。まったく。やるじゃないか。


 くるりと総司が僕を見る。


「俊。彩乃が大学を卒業したら、私にください」


 …。うわっ。このタイミングで。来たよ。


 僕は一瞬だけ黙って総司を見て、そしてニヤリと嗤った。用意していた台詞を言う。


「彩乃は物じゃないから、くれって言われてもあげない」


 言ったとたんに、彩乃と総司がびっくりして僕を見た。だけど次の瞬間、総司がにっこりと笑う。


「じゃあ、いいです。彩乃と祝言をあげますので、そのつもりで」


 許可じゃなくて、宣言をされてしまった。まいったなぁ。本当に総司、僕に慣れたよね。僕はひょいっと肩をすくめた。


「彩乃がいいなら」


 そのとたんに、彩乃が総司の手を両手で握り締める。


「総司さん! 嬉しい。すごく嬉しいの」


 やれやれ。


 両手どころか、両腕で総司に抱きつき始めたので、僕はそっとその場を後にした。どうせ業者が来るのは明日だし。そのまま二人っきりにしておこう。


 ちょっとだけ寂しい気持ちと、たくさんの幸せな気持ちを抱えて、僕は教会堂を後にした。


 この数日後、今度は教会そのものへの嫌がらせが始まった。始まりは張り紙。教会の門や外塀にベタベタと張られた張り紙。大きく打ち出された文字が躍る。思わず呆れながら検分してしてしまった。


「人でなし」 ある意味合ってる。人ではないよね。うん。


「人非人」 あ~。これも人でないことだから、ある意味合ってるな。


「鬼畜」 否定できない(笑)


 僕がのんびりと張り紙を見ながら、評価をしていたら、デイヴィッドとジャックが慌てて走ってきた。


「マスター! やっぱり警護を」


 言い始めたデイヴィッドを僕は止めた。メアリが帰ってから警護を断っていたのは僕だ。何もない教会の周りを二人が監視している必要はないし。


「別にいいよ。張り紙ぐらい。まあ、ちょっと剥がすのが面倒な気もするけど」


 ちらりと見れば、李亮がデッキブラシと水を入れたバケツを持ってくるところだった。


「あ、李亮。先に写真を取っておいて」


 物的証拠になるかどうか微妙だけど、後のために写真は撮っておくことにする。


 張り紙が写真に納まったのを見てから、剥がそうとして僕は顔を顰めた。うーん。かなり強力な接着剤でつけてある。剥がすのが面倒だ。思わずため息が出る。こういうの、できれば剥離糊でやってくれないかなぁ。どんな言葉が書いてあってもいいからさ。


 こういうのをやってるのは下っ端なんだろうな。マフィアでも上に行けば行くほどやり方がスマートになるし。


 ちょっとなぁ。張り紙ぐらいならいいけど、やり方が露骨になられると…困るんだけどな。


 ほんの少し困ったなぁという気持ちがあったけれど、でもきっと思い切ったことはやってこないだろう…そう思っていたけれど、さらにその数日後…。




 教会が炎上した。



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