表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
46/639

第4章  お留守番(9)


 そうそう。僕は久しぶりに松里殿に会った。前に僕がスリを捕まえて、彼の財布も無事に戻ったときに、一緒に飲んだ相手だ。


 夕暮れの街中で声をかけられて、最近は知り合いが多少できたとは言え、誰だろうと思ったら松里殿だった。で、懲りずにまた飲もうって話になって、松里殿のなじみの店で飲んでいる。非番でよかったよ。


 お酒はおいしいなぁと思うけど、残念なことに酔っ払わない。毒ですら殆ど分解する肝臓だからね。アルコール程度だったら、次から次へ分解してくれるわけだ。酔っ払っている人たちを見ると、とってもうらやましく思うよ。


 ある程度、酒がすすんできたところで、松里殿が遠慮がちに尋ねてきた。


「ところで宮月殿は…どちらかに仕官されているようには見えないが…」


 あはは~。そうだろうね。特に非番のときには着流しだし。刀を持ってないし。ついでに言えば、髪の毛が短いからマゲを結えなくて、坊主かと聞かれたことがあったし。坊主は坊主でも耶蘇(キリスト教)のほうだけどwww


「あ~、ふらふらしてる…みたいな?」


 なんで壬生浪士組って言わなかったかっていうと、まだ良い話がないんだよね。このときの壬生浪士組って。ケンカしているだけの集団みたいに見られててさ。名乗るだけで商いをやってる人は嫌がる風潮があるし。


「そうですか。いや、そうではないかと思っておりました」


 おいおい。それって、僕がプーに見えるってことじゃん(笑) 納得したように言わないでよ。ま、いっか。


「前にお話した身分なしの隊を作る話、覚えてます?」


「覚えてますよ」


「実は私、このたび、ある藩の士籍に加えられることになりまして…」


 照れたように松里殿は頭をかいた。つまり就職が決まったよ~って奴だ。しかも藩に決まったってことは、国家公務員になれたよ~って感じだろうか? いや、国家公務員というよりは、地方公務員かな。


 とにかくある程度は安泰な職についたってことだ。うん。


「それは凄いじゃないですか。まずは一献」


 そう言って僕は酒を松里殿に勧める。松里殿も、いや~とか言いながら嬉しそうにお猪口を出してきた。


「これで夢がかないそうです」


「そうですか!」


 僕はあえて藩名を聞かなかった。たくさんの藩があって、今ひとつ、どの藩が何県にあたるかわからないんだよね~。


 ちなみに壬生浪士組は会津藩の預かりなんだけど、会津っていうのは今の福島県あたりっていうのが最近わかった。


 いやいや。磐梯山って言われて、ピンとこなくてさ~。会津磐梯山って現代でも聞いたことあるよな~とか思いながら、みんなの話を聞いていたら、そういえばって感じで思い出したんだよ。ここでは藩を言われてわかるのが普通だからね。ボロを出さないようにしなくちゃ。


「名字帯刀も許されまして」


「それは。それは。おめでとうございます」


 僕がきっちり頭を下げると、同じようにして松里殿も頭を下げてきた。


 正直、名字あるじゃん? 松里って名字じゃないの? とか、すでに刀持ってるじゃん? とか、突っ込みどころ満載なんだけど、堂々と許可が出たってことかな~とか思って、お祝いを言っておく。


「それで名前を変えようと思いまして」


 あ~、この時代の人って本当に名前を変えるの、好きだよね。名前に対するこだわりがないのか、こだわりがありすぎて、名前を変えるのか。


「これからは長州藩士、吉田稔麿(よしだとしまろ)と名乗ります」


 …。


 思わず僕はお猪口を落としそうになった。ちょっと待って、今、何を聞いた? いやいや。僕は何も聞いてないよ? うん。空耳だ。空耳。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ