第4章 夏、いろいろ(4)
「作ってごらんよ」
僕がそう言えば、彩乃がおずおずと話始めた。
「えっと…じゃあ、お兄ちゃんの友達が」
「うん」
「昔戦場だった山の中に一人で行って」
「どうして?」
「え? 理由を考えないとダメ?」
「うん。リアリティがないでしょ」
総司が隣で助け舟を出す。
「じゃあ、薬草を取りに山に登っていて、道に迷ったなど…どうですか?」
僕は頷いた。
「薬草は取りにいかないと思うけど、山に登っていたっていうのはいいかもね。登山ブームだし」
その言葉に彩乃が頷いた。そしてまた話始める。
「えっと…じゃあ、一人で登山して迷って、暗くなったのね」
総司とレイラと僕の三人が、じっと彩乃の話に耳を傾けている。
「それで陽が落ちて…えっと…えっと…」
一生懸命考えている彩乃。
「怖いものが出てくるのよね。彩乃の怖いものは?」
レイラが話の先を促すように、優しく言う。彩乃がちょっと視線を泳がせてから、ポツリと答えた。
「えっと…土方さん…」
思わず僕と総司がコケそうになる。
いや…それはそれで怖いけどさ。山登りに一人で行って、暗闇に土方さんが立っていたら。思わず想像して…吹き出しそうになった。
「彩乃…彼が怖いの?」
レイラが問えば、彩乃がこくんと頷いてから、内緒ね? と小さな声で付け足した。
「鬼の副長とは言われるけれど…怒らせなければ怖くないのでは?」
と総司が言えば、彩乃はゆるゆると首をふった。
「だって…ぎろって見るの」
「ああ? 誰が怖いだぁ?」
「きゃぁぁぁぁぁ!」
ソファの後ろから急に土方さんが現れ、その瞬間に彩乃の悲鳴が響き渡った。
「土方さん…」
僕は思わずため息をついた。
わざわざ足音を消して忍び寄ってくるっていうのは、あまり褒められたことじゃない。まあ、彩乃が話に夢中になっていて、気づいてなかったっていうのも意外だったけど。
彩乃が総司の腕にしがみついて、土方さんのほうを伺うようにして見ている。土方さんが目を見開いてニヤリと嗤った。
その目つきに納得がいった。これか。彩乃が怖いっていう理由は。
「土方さん…彩乃を怖がらせないでよ」
僕の言葉に土方さんが睨んでくる。
「おめぇな。アヤカシがなんで俺を怖がってんだよ。怖がるなら俺のほうだろうが」
僕はため息をつく。
「土方さんは幽霊だろうが、なんだろうが、怖がるような繊細な神経、持ってないでしょうが」
「ああん? 俺だって怖いものの一つや二つ…」
土方さんが考え込むように目を閉じる。
しばらくして目が開いて、きっぱりと宣言した。
「ねぇな」
ほら。




