表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
445/639

第4章  夏、いろいろ(4)

「作ってごらんよ」


 僕がそう言えば、彩乃がおずおずと話始めた。


「えっと…じゃあ、お兄ちゃんの友達が」


「うん」


「昔戦場だった山の中に一人で行って」


「どうして?」


「え? 理由を考えないとダメ?」


「うん。リアリティがないでしょ」


 総司が隣で助け舟を出す。


「じゃあ、薬草を取りに山に登っていて、道に迷ったなど…どうですか?」


 僕は頷いた。


「薬草は取りにいかないと思うけど、山に登っていたっていうのはいいかもね。登山ブームだし」


 その言葉に彩乃が頷いた。そしてまた話始める。


「えっと…じゃあ、一人で登山して迷って、暗くなったのね」


 総司とレイラと僕の三人が、じっと彩乃の話に耳を傾けている。


「それで陽が落ちて…えっと…えっと…」


 一生懸命考えている彩乃。


「怖いものが出てくるのよね。彩乃の怖いものは?」


 レイラが話の先を促すように、優しく言う。彩乃がちょっと視線を泳がせてから、ポツリと答えた。


「えっと…土方さん…」


 思わず僕と総司がコケそうになる。


 いや…それはそれで怖いけどさ。山登りに一人で行って、暗闇に土方さんが立っていたら。思わず想像して…吹き出しそうになった。


「彩乃…彼が怖いの?」


 レイラが問えば、彩乃がこくんと頷いてから、内緒ね? と小さな声で付け足した。


「鬼の副長とは言われるけれど…怒らせなければ怖くないのでは?」


 と総司が言えば、彩乃はゆるゆると首をふった。


「だって…ぎろって見るの」


「ああ? 誰が怖いだぁ?」


「きゃぁぁぁぁぁ!」


 ソファの後ろから急に土方さんが現れ、その瞬間に彩乃の悲鳴が響き渡った。


「土方さん…」


 僕は思わずため息をついた。


 わざわざ足音を消して忍び寄ってくるっていうのは、あまり褒められたことじゃない。まあ、彩乃が話に夢中になっていて、気づいてなかったっていうのも意外だったけど。


 彩乃が総司の腕にしがみついて、土方さんのほうを伺うようにして見ている。土方さんが目を見開いてニヤリと嗤った。


 その目つきに納得がいった。これか。彩乃が怖いっていう理由は。


「土方さん…彩乃を怖がらせないでよ」


 僕の言葉に土方さんが睨んでくる。


「おめぇな。アヤカシがなんで俺を怖がってんだよ。怖がるなら俺のほうだろうが」


 僕はため息をつく。


「土方さんは幽霊だろうが、なんだろうが、怖がるような繊細な神経、持ってないでしょうが」


「ああん? 俺だって怖いものの一つや二つ…」


 土方さんが考え込むように目を閉じる。


 しばらくして目が開いて、きっぱりと宣言した。


「ねぇな」


 ほら。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ