第4章 夏、いろいろ(2)
「あの…あれは普通の服装なんですか?」
総司が口を開いた。
「うーん。まあ、なんとか普通かな。海外の暑い地域だとあれぐらいはざらにいる」
「この国では?」
「もうちょっと控えめだろうね。それでも…総司も見てるでしょ? 皆、わりと肌を露出してる」
総司がため息をついた。
「そうなんですよね…。水着も…売り場に行ったら普通に売っていて、普通に女の子が試着していました」
あ~。売り場まで行ったんだ。
「彩乃もどぎついのを選ぶ気は無いだろうから…少しは許してあげたら? ま、他の男たちに肌を晒すなっていうのも分かるけどさ」
むむむ…と総司が唸る。まあ、複雑な心境は分かるし、こればかりは総司と彩乃の問題だから僕ができるのはここまでかな。
「少しばかり…考えます」
そう言って、総司が教会堂のほうへ去っていった。
「さてと」
そう掛け声をかけてダラダラとしていた土方さんがソファから立ち上がる。
「用意をしねぇとな」
いそいそと部屋へ上がろうとする土方さんを僕は呆れた気分で見ていた。
「また飲みに行くの?」
そう声をかければ、土方さんがにやりと嗤ってこちらを振り返る。
「ちげぇよ。仕事だよ。仕事」
「はぁ?」
そんな話、聞いてないんだけど。
「仕事って…何?」
「へへへ。治安維持ってとこだな。俺だってだらけているだけじゃねぇんだよ」
治安維持? なんだそりゃ。
「土方さん、どこで、何してるの」
「うるせぇな。言っただろ? 仕事だよ」
土方さんは面倒くさそうに言うと、いそいそと部屋に上がっていった。
仕事? 土方さんが?
まだ現代社会だってそんなに慣れているように見えないのに…。いつ就職活動をしてたんだ?
誰も居なくなったソファに寝転んで涼んでいるところに、ドンドンと足音がして、また土方さんが降りてきた。今度は半袖の襟付きシャツにチノパンというわりとこざっぱりした服装をしている。
「一体どこで仕事するの? っていうか…本当に仕事?」
「うっせぇな。てめぇは俺の親か? 金はもらえることになってんだから心配すんな」
うわー。なんか胡散臭い。
ま、いっか。どうせ殺しても簡単には死なないし。土方さんなら、何があっても何とかするだろう。
「まあ、いいけどさ。やばいことになったら頭だけは守ったほうがいい」
「ああん?」
「いや、どんな仕事か知らないけど、とりあえず頭はやられたら、一族でも死ぬ確率が高くなるから」
そう言うと土方さんは片手を頭にやった。
「おう。覚えとく。ま、そんなことにはならねぇと思うけどな」
そしてひらひらと片手をあげて出かけていった。うーん。一体なんの仕事だろ? ま、いいや。そのうちに教えてもらおう。
土方さんが戻ってきたのは明け方で…。それからほぼ毎日のように夜に出かけ、朝に帰ってくる生活が続いた。
こういう生活サイクルの仕事ってなんだ?
僕の頭にはいろいろ浮かんだけれど、定期的に出かけるっていうことは、そんなにヘンな仕事では無いか…と思って、しばらく様子を見ることにした。
というか、土方さん、聞いても教えてくれないんだよ。




