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第3章  残響(2)

 凄い頭痛で目が覚めた。頭痛も吐き気もいまだ健在だ。胃の中のものを戻しそうになって、慌ててベッドから飛び起きて、トイレを探した。


 二つ目のドアで見つかったトイレの便器にしゃがみこみ、胃の中身を全部出す。


 こんな経験も初めてだよ。本当に。二日酔いの話をよく聞いていたけれど、大変だなぁなんて考えられたのもつかの間。また胃が痙攣するような感覚が走って、こみ上げてくる。もう出るものなんて何もないのに、繰り返し繰り返し吐いているうちに、背中を暖かい手が摩りだした。


 ある程度落ち着いたところで、水を入れたコップが出てくる。口の中をゆすいで顔を上げれば、傍にいたのは当然ながらレイラだった。


「ここは?」


「私が日本に来るときにいつも泊まっているホテル」


 見回せば、なるほど。綺麗に整った生活感の無い部屋はホテルそのものだ。かなり広くて…それなりにいい部屋のようだった。


「悪いね」


 そう伝えるとレイラはゆるゆると首を振った。胃が痛むし、頭が痛いのはそのままだ。


 コップを洗面台においてフラフラとベッドに戻ろうとすれば、レイラが僕の肩を支えた。


「何が起きているの?」


 僕は肩をすくめようとして…その余力すらないことに気づいた。レイラに返事をするよりもまずはベッドに行くほうが先。


「説明するから横にならせて」


 レイラは頷いて僕をベッドまで支えてくれて、横になるのを助けてくれた。酷いものだよ。足もフラフラ。体調が悪いって本当に大変なんだな。自分の身体ながら全身を捨て去りたいぐらいの衝動に駆られる。レイラに話をしようと口を開き、僕は大きく深呼吸をした。


「例の…新興宗教の…連中だよ」


 浅く息をしながらそう言うと、レイラが目を見開いた。


 そして僕は途切れ途切れになりつつも、レイラに先月のことを説明した。総司と彩乃を誘拐した連中を眷属にし、餓死をするように命令したと話すとレイラの目がさらに見開かれ、顔が真っ赤になった。


「馬鹿じゃないのっ!」


「耳元で…大きな声を出さないでよ」


「馬鹿よ。馬鹿っ!」


 怒っているのにレイラの瞳からはポロポロと透明な液体が流れ出す。


「主と眷属は結び付けられるって言ってたじゃない。感情の共有をしてしまうことだってあるんでしょ? だったら…」


 そう…今、僕の身体に起きているのは、あの眷属たちの死に逝く間際のフィードバック現象だ。彼らが死んでいく際に感じているものが、僕の身体に感覚として共有されているということになる。しかも何人分もが一度に。


「分かってたんだけどね」


「じゃあ、どうして」


 僕は弱弱しく嗤った。


「人を殺すんだ。それぐらいの罰があったほうがいいかなって」


「何を言ってるのよ。あいつらは知らなかったとは言え、私たちに手を出したのよ?」


「それでも…だよ」


 そう。自分への戒めのつもりだった。


「ここまで酷く跳ね返るとは思わなかったけどさ」


 頭が痛くて…身体も痛くて…僕はそう呟いたとたんに意識が遠退いた。レイラが何かを言っているのはわかったけれど、もう何も聞こえない。


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