第2章 驚きの基準(1)
土方さんが現代に来て、しばらく経った。
なんだろう…。
土方さんっていう人は、妙なところで順応性のある人だ。現代のものを見てもあまり驚かない。「ふーん」「ほぉ」「なるほど」と言いながら、便利なものはどんどん取り入れようとする。
いま一つ、僕としては面白くない。
電気をつけても「こいつぁ、いいな。明るくて」って感じだ。自動ドアも「便利だな」で終わり。テレビは面白がって見ているけれど、それでも驚かない。
「こいつはどういうカラクリだ」
そうやって冷静に訊いてくる。
なんかさぁ、総司みたいな驚きが欲しいよね。
今日は彩乃が取っている授業が休講だとかで、総司と二人でデートに行った。朝早くからネズミのキャラクターで有名な遊園地へ行ったらしい。平日に遊べるのは学生の特権だよね。
まあ、僕も用事を入れなきゃ何もしないもんなぁ。本当は祈祷会や勉強会とかいろいろあるんだけど、僕は極力そういうのを避けちゃう怠け者牧師だ。
自分で言うのもなんだけど…だめな感じ(笑)
レイラは部屋にこもって何かをやっている。ちなみにリビングを占拠していた機材は、彩乃がいた部屋に収まった。元の彩乃の部屋をレイラが使っていて、客間だったところを土方さんが使っている。
その土方さんはというと、リビングでソファに寝転んでテレビを見ていた。そうなんだよ。テレビを見るんだよ。驚きもせず。
「土方さーん」
「おう。なんだ」
僕の呼びかけに、土方さんが声だけを返してきた。
いつも僕が寝転んでいるソファを取られちゃったから、今日はダイニングのほうで僕は本を読むとはなしに開いてたんだ。そして、頬杖をつきながら土方さんの後ろ姿越しにテレビを見ていた。
ま、土方さんが寝転んでるから、頭の一部と足が見えてる感じなんだけど。
「土方さん、現代に来てびっくりしないの?」
「ああん?」
「全然驚いてないでしょ」
土方さんが身体を起こして、顔だけ振り返った。
「そんなこたぁ、ねぇよ」
「そう? 普通に見えるけど」
「そりゃ、一番驚くことに驚いたら、後はそれ以下だろ」
「何それ」
僕が頬杖を付いたまま眉を顰めると、土方さんが面白そうに嗤う。
「おめぇ、これだけ人間じゃねぇ奴に囲まれてみろ、他のものなんか、驚く価値もねぇよ」
「はあ?」
「どれもこれも、まあ、想像できるじゃねぇか。あの時代だってエレキテルはあったし、ぽとぐらふぃもあったしよ」
あ~。電気と写真ね。
「150年もたちゃぁ、こういうもんがあっても不思議じゃねぇ」
そう言うと、土方さんが僕の顔をじっと見る。
「だがよ、アヤカシに囲まれて、自分もアヤカシになるなんざ、想像もできねぇもんだぜ?」
僕は思わず居心地が悪くなって、ごまかすように頭を掻いた。
「あ~。そうかな」
「そりゃ、そうだろうが。お天道様もビックリってぇもんだ」
まあ、そうかもしれない。うーん。
なんとなく感心していたら、土方さんが立ち上がった。そしてニヤニヤと嗤いながら近づいてくる。なんか怖いんだけど。




