表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
398/639

第8章  拘束(7)

 レイラよりも教主が早かった。一時間も待たずにドアが開いた。ドタドタと人が入ってくる。


 顔に舞踏会のような目を覆うマスクをつけた小太りの西洋人。宗教の教主というよりは、マフィアのボスと言ったほうが納得度は高いかもしれない。


 そしてもう二人ほど、がっちりとしたタイプの西洋人と眼光が鋭い細身の東洋人。加えて最初に僕らを取り囲んだ連中。


 李亮はまだ床の上でぼんやりとして、自分の喉をさすっていた。きっと喉の渇きが酷いんだと思う。分かっていたけれど、僕は放置していた。


「お前か…不老不死にできるという奴は」


 割と綺麗な日本語で教主は僕にそう訊いてから、おもむろに懐から宝石で飾られたナイフを出すと、李亮の足に突き立てた。


 短い悲鳴が上がる。そして教主はナイフを抜いて、その傷口をまじまじと観察する。


「本当に傷が塞がっていく」


 僕の前に机が用意された。銀の杯に、注射器が数本。


「お前の血は…どのぐらい飲めばいい」


「一滴」


 教主の両方の眉があがる。


「私の血はどのぐらい飲ませればいい?」


「それも一滴」


 そして僕は付け加えた。


「ここに居る人が、あなたの部下ならば、部下も一緒に不老不死にしたほうがいい。そうしないと、簡単に死んでしまうからね。人間の命は短い」


 僕の言葉に教主が考え込む。


「よく使える手駒っていうのは、なかなか現れないものだよ」


 さらに言うと、教主は頷いた。


「なるほど。確かにその通りだ」


 周りにいた男たちの目の色が変わる。喜んでいるものと、怯えているものと…。


「あなたの血と部下の血をその杯の中に入れて集めて。まあ、一滴あればいいけど、ちゃんと僕が飲めるようにある程度の量はあるといいよね」


 教主が傍にいた男に頷くと、手馴れた手つきで男が注射器をそれぞれの腕に突き刺し始めた。そして銀の杯に血が満たされる。


 一人の男が僕の前にその杯を突き出す。僕は零さないようにそれを飲み干した。美味しい。久しぶりに生の人間の血だ。


「それから僕の血を一滴ずつ。みんなの口にたらして。多分、飲みにくいから量が少ないほうがいいよ」


 そう言えば、納得したのだろう。さっきの男が僕の腕に注射器を突き刺し、血を抜くと、それぞれの口に一滴ずつ入れ始めた。そして自分自身も飲む。


「次は? どうすればいい?」


 教主の問いに僕は答えようとして、ふと思いついたことを尋ねた。


「本当に…不老不死になりたいの? 何もせずに僕らを逃がす気はない?」


 教主が僕を鼻で嗤う。


「お前を捕まえるのに、どれだけ手間がかかったと思っている。それを目の前で逃すような愚行はしない」


 僕はため息をつくしかない。どうやら素直に逃がしてくれる気は無いようだ。


「妹共々、無事に帰りたければ協力しろ」


 しぶしぶ僕は口を開く。


「仕方ない…みんなの本名を教えて」


 それぞれが言う名前を僕は復唱した。


「そして…最後に僕が今から言うことを繰り返して」


 僕の真名を繰り返させる。最後にもう一度僕は聖句を唱えた。ぎりぎりのタイミングだ。言い終わったとたんに、皆の身体が痙攣し始める。僕は自分の衝撃に耐えながら、終わるのを待った。


 そして、それは終わりを告げた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ