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第7章  視線(7)

 三日間後、相変わらずダイニングルームはレイラに占拠されている。総司が彩乃に付き添って、彩乃の部屋で寝泊りしているから、レイラには総司のベッドを提供することにした。もちろんシーツなどは交換済みだ。さすがにね。


 そして彩乃は寝込んでいて…ようやく元気になったと思ったら、今度は総司が帰ってこない。夕方、一人で買い物に出ていき…戻ってこない。


 ソファに寝転がって本を読んでいた僕の前に、彩乃が眉を寄せて立ち尽くしている。


「お兄ちゃん…おかしいよ。総司さん、こんなに帰ってこないなんて…」


 近所のスーバーに僕の代わりに買い物に行って、気付けばすでに二時間。まあ、それぐらいなら寄り道かも…とは思ったけれど、あまりにも彩乃が心配するもので、少しだけ僕は総司の居場所を探すことにした。


 例の主と眷属の絆って奴を使う。意識をすれば、相手がどのあたりにいるかわかるから楽なもんだ。頭の奥のほうがなんとなく動くような感覚がして、総司の場所を感じる。感じたけれど、思わず眉を顰めた。


「なんか…遠ざかってるんだけど…」


「え? どういうこと?」


 彩乃が訊いて、ダイニングルームにいたレイラも僕を見る。


「眷属の位置は、主にある程度わかるんだよ。でも、総司がどんどん遠ざかってる」


 なんか変だ。この遠ざかり方は、車か電車か。一体、総司はどこへ行こうとしているんだ? しかも彩乃にも黙ったままというのが解せない。


「そんな…。総司さん」


 彩乃が不安そうな声を出す。ダイニングから移動してきたレイラが安心させるように彩乃の肩を抱いた。僕も無理やり笑ってみせる。


「なんか理由があるんだと思うよ?」


「わたしが嫌いになったとか?」


「それはない」


 きっぱりと言い切って、僕は車のキーを掴んだ。白いウサギが揺れる。


「ちょっと追いかけてくる」


 彩乃とレイラが一緒に来るといったけれど、僕はそれを押しとどめた。僕の勘が何かを告げている。何があるかわからないけれど、動くなら僕一人のほうがやりやすい。


「レイラ。彩乃。ここにいて。何かあったらすぐ連絡するから。鍵をしっかり閉めて」


 携帯電話をポケットに入れると、僕は不安な顔をしている二人に「きっと、何か用事ができたんだよ」と安心させるように言い置いて、総司の後を追いかけた。


 感覚を頼りに車を走らせれば、総司はどんどん東京の東のほうへ向かっている。すでに結構距離がありそうに感じたので、すぐに中央高速に乗って、首都高へと入った。


 まったく首都高は面倒だ。高速と言いながら速度制限があって、高速じゃないだろうと突っ込みたくなる。アウトバーン(ドイツの高速道路)みたいに速度制限を外せとは言わないけれど、せめてイギリス並みに高速らしいスピードにしてくれたらいいと思う。まあ、道が狭いから無理か。


 そうなんだよね。道が右に左に分岐する。場合によっては中央分離帯として壁が突如として現れる。スリルはあるが、運転しにくいことこの上ない。


 僕の高速道路への文句は誰に届くこともなく、総司はどんどん移動している。方向は羽田方向。飛行機に乗るつもりか? 飛行機に乗られると追跡が面倒になる。焦る気持ちを再び高速道路への文句にして、僕はアクセルを踏み込んだ。


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