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間章  旅行 2日目(2)

 金戒光明寺…別名、黒谷本陣。よく近藤さんが通っていたところ。わたしは来たことがないけれど、総司さんは近藤さんのお供をしたことがあるらしい。下から続く参道とは別に、本殿のすぐ傍まで車が入ってくることができるように道が整備されている。


「ここも綺麗に整備された」


 総司さんが時間の流れを感じるように、あたりを見回しながら口にする。あちこちにコンクリートが使われているから、多分、そのあたりのことを言ってるんだと思うの。


 ゆっくりと正面の広い階段を登ると境内。とっても立派なお寺だった。


「殆ど中は見ていない」


 と総司さん。だから二人でじっくりと見たの。きっとここに、わたしが会ったことがない、会津公がいらっしゃったんだなって思いながら。


 そして…ぶらぶらと歩きながら、お土産屋さんも見た。和風のお店があちらこちらにあって、かわいいものが沢山ある。


「これ、俊にどう?」


 総司さんが笑いながら持ち上げたのは、可愛いうさぎのキーホルダー。


「え? お兄ちゃんには可愛すぎる気がするよ?」


「でも彩乃にそっくり。私が買おうかな」


 思わず頬が赤くなる。わたし、そんなに可愛いかな。白いちりめんに、きょとんとした紅い目をしたうさぎさん。


「そ、そんなにわたし、可愛くないよ?」


「可愛いよ。自分で気付いてないだけ」


「で、でも…」


「それに、俊が持っている刀の鍔のうさぎに似てる」


 確かに…。


「買う」


 わたしがそのうさぎを受け取ると、総司さんが笑った。


「俊がそのうさぎを目にしたときの表情を見たい…かな」


 思わずわたしも笑っちゃった。びっくりするかも。でもいいよね?


 そして二人で手をつないで、ホテルに戻った。




「シャ、シャワー、浴びてきま…えっと、くるね」


 部屋に入ったとたんに緊張してしまって、声が震えて思わず挙動不審。そしてくるりと方向を変えたわたしの手を総司さんが掴んだ。


「彩乃。大丈夫だから。ちょっと話をしよう」


「え?」


「座って」


 総司さんと並んでベッドに座って、総司さんに抱きしめられる。


「彩乃…愛おしい」


 そう言って総司さんがキスをして、唇が離れたと思ったら見つめられた。


「人間は最初、男と女が一つの個体だった…という神話があるのだそうだ」


「神話?」


「そう。遠い国の神話。ぎりしあという国の神話」


 あ、ギリシャだ…。


「しかし悪いことをして二つに分けられてしまって、それで男と女ができた。だからそれぞれが、それぞれの半身を探して求めているという話」


 総司さんはぎゅっとわたしの手を握った。


「あなたが私の半身だと思う」


「総司さん…わたしも…総司さんがわたしの半身だと思うよ?」


 もしもそんな神話があって、それが本当だったら…。


「わたしは総司さんに会うために、150年前に行ったんだと思うの」


 総司さんは、ほぉっと長く息を吐き出した。


「奇跡ですね」


「はい」


 そう言って、二人して言葉が戻っていることに気付いて、照れて笑った。


「だから…彩乃。一緒に歩もう。無理しなくていいから」


 総司さんがわたしの頬を撫でる。


「怖いなら、彩乃が私を自然に受け入れられるまで…待つから。その…昨晩は少し箍が外れてしまったけれど」


 言葉の最後には、気まずそうに総司さんの視線が逸れていく。それを見て、わたしは思わずくすりと笑ってしまった。


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