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第6章  千客万来(4)

「行ってきまーす」

「行ってきます」


 彩乃が暢気な声を出し、総司がやや不安そうな声を出して出て行った。


 二泊三日の京都旅行。


 シーンとした家の中で、改めて彩乃と総司の存在が大きいことを思い知る。あまりにも静か過ぎて…逆に集中できない。


 ま、いっか。こういう時こそ、彼らに見せてない仕事でもしよう。


 このところ総司のことがあったんで、牧師の仕事も控えめにしていたおかげで、ぽっかりと時間が空いてしまった感じだ。それならそれでやることはあるわけで…。


 僕は2階にある自分の部屋でパソコンを立ち上げると、次々とメールを打ち始めた。一族で所有している複数の会社の状況は把握しているんだけど、いつもは口を出さない。


 でもこのところいくつか思いついたアイディアがあったので、それをしかるべき人物に送る。とたんに電話がかかってきた。ニューヨークからの国際電話だ。


「リー! 真面目に仕事をする気になってくれて嬉しいよ」


 時差もなんのその。向こうは夜中になろうという時間なのに元気だ。


「やあ。ジム。別に真面目にやる気はないけど、思いついたから」


「おいおい」


 父の眷属の一人。今は僕の眷属で、某大企業の社長。僕はそこの大株主という状態になっている。正確に言えば、イギリスのほうで投資会社を起こしてあって、そこから投資してるんだけどね。たまに思いつくアイディアを送ると、彼が吟味して実行してくれる。会社が儲かれば、株主にも恩恵がある。


「リー。君の情報収集能力をもっと生かしてくれよ。何ヶ国語も理解して、最先端の情報を得る人間の希少価値は高いんだから」


 まあ、そうだろうね。あちこちの文化をそのままの言葉で理解したいと思ったから、自発的にいろんな言語を習得したけど、長く生きていれば得られるというものではない。一族でも英語しか話さない者もいる。僕からしたらもったいないと思うけど。


「追加で必要な資料はある? 実は明後日までは時間が空いたから、資料の用意もしてあげられるよ?」


 そう言えば、ジムが唸る声を出す。


「明後日か。このアイディアと資料をうちの人間に精査させるのに、もうちょっと時間がかかるな」


 僕は少し考え込んだ。


「ん~。じゃあ、インドと中国、どっちの方面が有力そうかだけでも明日の午後に教えて。そうしたら選んだほうの市場の調査結果を探して、翻訳して送るよ」


「無駄になるかもしれないぞ?」


「いいよ。別に暇つぶしだから」


 そう言うとジムがぎょっとしたような声を出した。


「おい」


「あはは。ごめん」


 笑って謝れば、ジムのほぉっと息を吐く音が電話越しに聞こえてくる。


「お前の親父も食えない奴だったが…お前も相当だな」


「うわ~。父さんと一緒にしないでよ」


「親子だから似てる」


「それ、言われたくないんだけど」


 思いっきり嫌そうな声を出せば、ジムに笑われた。


「とりあえず明日、連絡する」


「待ってるよ」


 そう言って電話が切れたとたんに、次の電話が鳴った。


 あ~。一度にメールを送りすぎたな。


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