第5章 牽制? 威嚇?(6)
「あのさ」
どう言いくるめようかなぁと思って口を開いたところで、総司がひょいっと僕の隣に来た。
「えっと…ヤナセさん…でしたっけ?」
ヤナセくんの視線が総司に移る。
「彩乃さんをあなたに渡す気はありません」
そう言って総司は彩乃を立たせると、ぐっと自分のほうへ抱き寄せた。みんなが息を飲んで総司を見ている。
「彩乃さんと気持ちが通じて、こうやって今、一緒にいられるのは…私には…奇跡なんです」
それは想いが詰まった言葉だった。総司は彩乃を見て温かく微笑んでから、穏やかな視線をヤナセくんに移す。
「ようやく手に入れた彩乃さんを逃す気はありませんし…彩乃さんの目を私以外に向けさせる気もありません」
そう言い切ったとたんに、周りがほぉっと息を吐いた。
「凄い…」
「なんかドラマ見てるみたい…」
そう呟きが出る。
周りから冷やかすような言葉が出ないのは、それだけ総司の言葉に重みがあるからだろう。みんなは知らなくても、総司の言葉には種族と時空を超えただけの想いがこもっている。それは雰囲気に現れていた。
「さて。お邪魔しちゃったね。帰ろうか」
僕がそう言うと呪縛が解けたように、皆が動きだした。
総司に肩を抱かれて出て行く彩乃が心配そうに後ろをちらりと見る。彩乃の隣にいた女の子と目線を交わした。小柄でちょっとぽっちゃりとしていて、なんかマシュマロみたいな女の子だ。
「送ってあげてもいいよ」
人には聞こえない声で呟けば、彩乃がぱっと表情を明るくして総司の腕から離れた。
「千津ちゃん! 一緒に帰る?」
彩乃が首をかしげれば、千津ちゃんと呼ばれた子が、ぱぁっと微笑んだ。
「いいの?」
「大丈夫だよ。ね?」
最後の「ね?」に僕は頷く。千津ちゃんも荷物をまとめて、先輩たちにペコリと挨拶をして、僕らと一緒に店を出た。
「すごいね~。彩乃ちゃん、ドラマみたいだったよ~」
車の中、その外見に似合ったぽわんとした話し方で、千津ちゃんは彩乃に一生懸命に興奮を伝えていた。
「いいな~。わたしも彩乃ちゃんの彼氏さんみたいな彼氏が欲しいな~」
のんびりとした口調で言えば、同じく後部座席に座った彩乃も照れながらも答える。
「千津ちゃんなら、すぐに彼氏ができるよ」
「そっかな」
「うん」
「そうしたら一緒に四人でデートしようね~」
「うん。早くいい彼氏を作ってね」
そんな、裁縫かなんかで作るんじゃないんだから…と思うけど、二人は真面目らしい。
「うん。がんばるね~。早く作るから待っててね」
ま。いいや。




