第5章 牽制? 威嚇?(5)
おろおろし始めた彩乃と、内心おろおろしてるけれど、なんとか表面上は平静を保っている総司を尻目に、僕はしれっと答える。
「彩乃の相手は彩乃が決めるべきでしょ。でも僕としては彩乃より弱い男に妹は任せられないかな」
茶髪男くんの頬に朱が走る。
ま、悪いけど彩乃より強い男って、なかなかいないと思うwww
「それに…クリスチャンの結婚相手は、やっぱり同じ宗教を信じる人のほうがいいとは思うよ」
と、ちょっと牧師っぽいことを言ってみる。
ちなみにこれは単なるレトリックで、僕は彩乃がクリスチャンだとは言ってない。でも勘違いしてくれたら、ハードルがそこに一つできるし、彩乃の清純なイメージも守れる。ま、それ以上に、僕らには大きな秘密があるけど(笑)
狙った通りに茶髪男くんは、僕の術中に落ちてくれたらしい。
ぐっと詰まったまま、それ以上、言葉を発しなかった。彩乃は君の遊び相手になるような女の子じゃないよ…と心の中で付け足して、僕はにっこりと笑った。
「総司は彩乃をとても大事にしてくれてるし、彩乃も悪く思ってないみたいだから、僕としては見守ってる状態」
そう言えば、彩乃が総司を見てにこっと笑って、総司も彩乃を見てにこっと笑って。周りがそれを見て、きゃっーと声をあげて。
悪いけど、キャリアが違う。口で僕に勝とうなんて100年早い。いや、200年ぐらい早いよ。
「ヤナセ~、諦めろよ」
先輩らしき男が声をかけて、茶髪男くん…ヤナセくんが舌打ちをした。
「でも、俺、諦めないですよ?」
「はい?」
「別に男が強くなくたっていいでしょ。一緒にいて楽しかったら、それでいいと思うし」
なんだかなぁ。
「ま、そういう価値観もあってもいいかもね。僕は認めないけど」
そう伝えれば、またぐっと詰まった。それでも負けじと口を開こうとする。
意外と根性あるな。ちょっと方向性が違うけど。
「お兄さんがどうでも、彩乃ちゃんがOKならOKなんですよね」
「そうだね」
ああ、もう。うざったい。
僕は面倒になってきた。こういう方向違いでしつこいのは嫌いなんだよ。
「強いっていうのは、別に腕っぷしの問題だけじゃなくて、意思とか、心とかも含めてだよ。お互いに支えあえるような関係じゃないと良くないと思うしね」
「俺、意思は強いですよ」
思わず僕は鼻で笑ってしまった。
ごめん。そうかもしれないけど…相手が悪いよ。君がいくら強くたって、あの幕末の死線をくぐってきた総司には適わないと思うんだよね。
「馬鹿にするんですか? お兄さんだって俺らとそんなに年、変わんないでしょ。それなのにそんなに上から目線って、どうなんですか」
周りが『おいおい』と止めに入ってきた。




