第5章 牽制? 威嚇?(4)
店に入ると…ミイラ取りがミイラになっていた。10人ぐらいの集団の中に、迎えに行ったはずの総司が、女の子に両隣を挟まれてコップを持たされて飲んでる。彩乃は彩乃で隣の席の男の子から覗きこむように話をされて、動けなくなっていた。
やれやれ。
この集団、女の子のほうがやや多い。
「彩乃~。帰るよ~」
そう声をかけたとたんに、女の子のうちの一人が立ち上がって、すかさず僕のところに来る。
「彩乃ちゃんのお兄さんですか~?」
お化粧をばっちりとして、可愛く見せてるけど。うーん。好みじゃないな。
「そうだよ。迎えに来たんだけど…」
そう言えば、するりと彼女の腕が僕の腕に絡みつこうとする。なるほど。こうやって総司は捕まったわけだ。
僕は身体を半身ずらすことで彼女の腕を避けた。そしてぱっと自分の腕を持ち上げて、彼女を制する。
「悪いね。知らない人にベタベタされるの、あまり好きじゃないんだ」
あくまでにっこりと、そして申し訳なさそうに言えば、彼女は慌てて首を振った。
「私のほうこそ、すみません」
おや。素直。
僕は一歩進んで、飲んでる集団に向かってすまなそうに言った。
「盛り上がってるところに申し訳ないけど、彩乃も総司も明日の朝、早いから連れて帰らせてもらうね」
「え~。もうちょっといいじゃないですか~」
彩乃の隣にいた男が文句を言う。髪はやや茶色にしていて、服装も今風で。軽い女の子だったら、簡単に引っかかりそうな男だ。こいつか? 彩乃が困ってるのは。
そんなことは表情に出さずに、僕はにっこりと微笑んだ。
「明日は朝から教会の奉仕活動なんだよ。僕は牧師だからね。二人には良く手伝ってもらわないと」
「えっ。彩乃ちゃんの家、教会なの?」
そんな声が飛んでくる。
「う、うん。そうなの」
彩乃が答えたところに、すかさず僕は畳み掛けた。
「ほら。総司も」
別に本当に奉仕活動があるわけじゃない。単なる方便なんだけどね。
「寝坊したらたたき起こすよ?」
僕がそう言えば、女の子の一人が恐る恐るという風情で声を出した。
「もしかして…彩乃ちゃんの彼氏って、一緒に住んでるんですか?」
この質問を待ってたんだよね~。
彩乃が答える前に、僕が答えた。
「そう。総司はうちに居候してるよ。僕とは兄弟みたいなもんだし」
「えっ!」とか「きゃっ!」とか声が飛ぶ。
その瞬間に、彩乃の隣にいた茶髪の男が僕を睨んだ。
「その人…彩乃ちゃんの彼氏っていうか、婚約者なんですよね?」
「うん。そうだけど?」
「この年で決めちゃっていいんですか? お兄さんの都合ですか?」
よし釣れた(笑)




