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第4章  アイデンティティ(15)

 僕は総司の木刀を腕に力をこめて弾いたとたんに、ジャンプして総司の頭の上を越えて、背後に立った。そして振り返り様に総司の首筋に木刀を当てる。


「ほら。君は死んだ」


 総司がビクリとして振り返った。


「総司。人間と違うんだ。僕らの脚力なら、頭上も越えられる。だから前後左右だけじゃなくて、上も警戒しないとダメなんだよ」


 そう言って、僕は木刀を引いて、また晴眼に構えた。


「今度は僕から行くよ」


 総司がぐっと顎を引く。


 そのとたんに僕は足元に滑り込んで、そして後ろから総司の背中を袈裟に斬った。あくまでそっと…だけど。


「速さも人間とは違う。だから相手の動きを予測しないとダメだ」


 くるりと振り返った総司の背中側から、僕は移動して、そして総司の胴に木刀を這わせる。


「気配だって、簡単に消せる。野生の動物みたいなもんだからね」


 後ろからささやいてやれば、総司がまた振り返った。そこを背中側から側転の要領でくるりと宙で回転しながら、頭上から木刀を下ろす。ただしそっと。


「ほら、言ったばかりなのに、頭上ががら空き」


 総司がくるりと僕に向き直った。おっ。さすがに少し慣れてきたみたいだ。


「総司。目だけで追ってもダメだよ。全感覚を使うんだ。相手の心音…聞こえるでしょ」


 総司が一度目を閉じて…そして開いた。



 真紅の瞳が僕を見据える。



 思わず僕はにやりと嗤った。そうこなくっちゃ。


「上等。おいでよ」


 そこから再び打ち合いが始まった。


 右、左、後ろに行き、前に飛び、そして頭上から狙う。


 さすがに総司は順応が早かった。僕のスピードに追いついて、そして打ち込んでくる。前後左右だけじゃなくて、頭上の動きも捉えるようになった。


 でもまだまだだね。


 頭がまだ人間の速さのままだ。身体はスピードを出せるのに、それをセーブしている。


「ほら。総司。遅れてるよ」


 意図的にスピードを上げてやれば、総司も合わせてくる。多分、人間の目には早回しのように見えるだろう。


 ドンッと音がして、突きが来た。総司お得意の三段突きだ。人間のスピードではないけれど、まだ遅い。僕はそれを捌いて、トンと飛ぶと総司の後ろに下りて、そして袈裟斬りの要領で木刀を振り下ろした。


 くるりと総司が身体を回して、木刀を受ける。


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