第3章 七歳にして男女席を…同席?!(8)
「彩乃が剣道で全国大会一位って言われて、嬉しくなさそうだったでしょ」
僕が始めた全然違う話に、総司が顔を上げて僕を見る。
「彩乃が一位を取るのは当たり前なんだよ。でもなんで大会に出るかわかる?」
「いいえ」
「彩乃が通ってる剣道のところって、おじいちゃん先生で、なかなか商売が下手な人でさ。お弟子さんが来ないんだよね」
総司がじっと僕の声を聞いている。
「彩乃が一位を取ると宣伝になるんだよ。それで少しお弟子さんが増えて、ちょっとだけ成り立つの。しばらくすると減るから困って、彩乃に出てもらって、またお弟子さんが増えるの」
「そういえば…試衛館も…近藤先生が苦労されていました。よく源さんが切り盛りしていましたっけ」
「うん。事情は一緒。有名な剣客が居れば、そこに人は集まるでしょ」
僕はシートを倒して、寝転がった。あ~、楽だ。
「私もやります」
寝転がった僕を見て、総司も自分のシートの周りを見回す。
「そこ左側に棒が出てるでしょ。それをそっと後ろ側に倒して」
しばらくごそごそしていたけれど、やがてガタンと総司のシートが倒れた。総司も寝転ぶ。フロントガラスから空が見えた。
「彩乃は人間の間で生きてきたから、あまり一族としての意識が無いみたい。それでもああいう試合になると、自分の能力を意識するみたいで。それで嫌がってた」
「わかります」
総司がぽつんと言う。
「でもさ。人間に足の速い人、遅い人がいるのと同じように、僕らのこれも個性だって思ったら、ダメなのかな」
「それにしては強力すぎる気が…」
「そうなんだけど、でも力がちょっと強いとか、動体視力がいいとか、別にそのぐらいだったら、いい気がするんだよね」
そう。空を飛べちゃったり、尻尾が出てきたりするより、よっぽど人間的だ。ま、僕は僕だから、いいんだけどさ。
「それでその力が誰かの助けになるんだったら、なおさら良いんじゃないかな」
総司が寝転びながら僕を見た。
「彩乃は彩乃の剣道のおじいちゃん先生が好きで、剣道も好きで。なんとかしてあげたいって思って、なんとかする力があるわけで。だったら躊躇することないと思う」
そして僕は総司を見る。
「総司もせっかく力が手に入ったんだから、誰かのために使うんだったら躊躇することないんじゃない?」
「誰のために使うっていうんです…」
「いつか…誰かのために。彩乃のためだけじゃなくて。この時代でも友達ができるかもしれないし…。僕があの時代で、近藤さんを守ったみたいに」
総司が目を見開いた。
「僕は後悔してないよ。正体をばらしたし、新撰組を離れることになったけど、でもあの場では近藤さんも、そして人間だった総司も守りたかった。だから自分ができることを精一杯やった」




