第2章 現代探訪(10)
結局一時間以上かかって、洋服を選び終えた。僕は何もしてないのに、気分だけクタクタだ。
総司もそうみたいなのに、彩乃だけが元気だ。
「次はわたしのお洋服~」
そんなことを言ってニコニコしている。
「彩乃。今度こそお金を渡すから、自分で買ってきて。僕と総司はお茶してるから」
「え~。わたしもお茶したい」
「じゃあ、先にお茶してそこで待ってるから、彩乃だけで買い物に行って」
僕がうんざりとした顔で言えば、彩乃もようやくわかってくれたらしくて、首が縦に動いた。
僕らは和風の喫茶店に入ることにした。このショッピングセンターの中の喫茶店やショップはすべて彩乃が調査済みだ。中学生のときから友達とも来ては、甘いものを食べていたらしいから、任せておけば総司好みのところに入ってくれる。
和風の喫茶店に入れば、水とおしぼりが出てきて、メニューが置かれる。
「水? 頼んでいませんよね?」
総司が不思議そうな顔で水を見た。
「日本では食事ができるところでは、サービス…えっと、タダで水を出してくれる習慣があるんだよ」
総司がびっくりしたように僕を見る。
実際、日本以外ではサービスで水を出すという習慣はほとんど無い。水を頼むことは、ミネラルウォーターを頼むことになって、お金を取られることが多い。日本っていう国はある意味、サービス過剰な国だ。
「後でお茶もタダで出てくるよ」
「えっ? 本当ですか?」
「ほんと。ほんと。楽しみにしてて」
僕らの会話が途切れたのを聞いていた彩乃は、すぐにメニューを開いて総司に見せる。
「総司さん、何にします?」
総司はメニューを見て、再び目を丸くした。
「なんですか? この文字」
「日本語ですよ?」
彩乃が首をかしげた。僕は苦笑するしかない。
「かな文字は進化を遂げたんだよ。基本的にはあの繋がったような文字は書かれない。しかも横書きになっているんだ。横書きは左から右に読む」
総司が眉を寄せて、一生懸命読もうとしている。文字は多少簡略化されたとは言え、そんなに変わっていないから読めるかも。問題はその意味だ。喫茶店のメニューなんて殆どが、外来語だしね。
「何がなんだか…」
がっくりと気落ちした声で総司が呟いた。
「あんみつかなんかにしておけばいいんじゃない? アイスクリームが欲しかったら、クリームあんみつかな」
と僕が言えば、
「あ、和風パフェもいいですよ。抹茶アイスに果物がたくさん乗っていておいしいんです」
と彩乃が勧めてくる。
総司は力なく笑って言った。
「あい…なんとかも、くりなんとかも、最後の彩乃さんが言ったのも、まるで異国の言葉です。何を言われたか分かりませんでした…」
「彩乃、選んであげて」
「じゃあ、クリームあんみつと、和風パフェを一つずつ選んで、半分こしましょう」
彩乃が無理やり総司に笑いかける。
こればかりは慣れてもらうしか仕方ない。
「じゃあ、僕は…わらび餅にしようかな」
そう言って、暇そうにしていたウェイトレスを呼んでオーダーする。




