第2章 現代探訪(9)
「とりあえず、総司。さっき店員が持ってきたのを着てみる?」
「はぁ。どうしたらいいんです?」
「そこに試着室があるから。そこに入って、カーテンを閉めてから、着る。これがシャツ。ボタンの留め方は覚えてるよね?」
「まあ、なんとか…」
「これはパンツ…えっとズボンって言ったほうが通じる? こいつと一緒。止め具はこんな感じ」
僕は総司がはいているパンツを指差してから、止め具の説明をした。
今朝、一度着ているし、難しいものではないから、まあ大丈夫だと思うけど。
「とりあえず洋服を持って、中に入って。下着の上からはくんだよ」
「やってみます…」
不安そうな顔のまま、総司が試着室に消える。
「俊?」
「何?」
「なんでこんなに狭いんです。ここ」
「試しに着てみるだけの場所だから。身体をぶつけないように気を」
つけて…といいかけたところで、ゴトンと音がした。さっそくどこかぶつけたらしい。
「大丈夫?」
「はい。ちょっと足が…あっ」
またゴトンと音がした。
「慌てなくていいよ。そっとやって。そっと」
洋服を破いたら、後が面倒だ。
カーテンが開いて、総司が出てきた。なかなか似合っている。
「うん。いいんじゃないかな」
僕がそう言えば、総司は照れくさそうに笑った。そこに彩乃が駆け込んでくる。
「総司さん。それも似合うけど、これもどうですか?」
春っぽい若草色をベースにしたチェックのシャツだ。
「派手じゃないですか?」
そういえばあの時代は黒とか茶とか渋い色が多いんだよね。特に男物は。僕は肩をすくめて見せた。
「そのぐらい普通に着るよ」
着てみてくださいと、彩乃に押し切られて、カーテンの陰に総司が消える。
こりゃ、しばらくかかりそうだなぁ。




