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間章 千駄ヶ谷某所
待ち合わせの千駄ヶ谷某所。
父さんはすっぽりとザルみたいのを被っていて、虚無僧みたいになっていた。尺八をもっていたら、吹けそうな感じだ。
「なんだ? 一人増えてるな」
やわらかなバリトンが耳を打つ。声だけ聞いてたら、英語訛りはないからこの国の人に思われるかもね。
「あ~。ちょっとね。眷属が増えた」
僕が答えるとザル越しに、父さんがじっと僕を見ているのを感じる。
「無駄に眷属を増やすなよ」
むっ。父さんに言われたくない。
「父さん、自分こそどうなの。父さんが亡くなった後、本当に沢山の眷属が来たんだからね」
「ああ、そうかもな。だからお前は増やすな」
勝手だなぁ。
「いいんだよ。総司だから」
「なんだ。お前の関係者ならいいのか」
「そういうことじゃない」
あ~。もう。昔から父さんはどっかずれてるんだよ。まあ、でもこういう言い合いをできるのも最後か。
「そろそろ行くよ」
僕がそう言えば、父さんは頷いた。そして彩乃とも名残を惜しんで、そして僕ら三人は父さんが作った時空を超える穴へと足を踏み入れた。 さようなら、幕末…。




