間章 へんなところ(1)
------- 彩乃視点 ------
なんでこんなところに来ちゃったんだろう?
大きな蔵の中で、へんな男の人たちに囲まれたの。どこにいるのか分からないし、ちょっと怖いなって思って、わたしは目の前のお兄ちゃんの背中のシャツをぎゅっと握った。
うん。大丈夫。
お兄ちゃんがいれば、きっとなんとかしてくれる。
あまり周りを見ないようにして、お兄ちゃんの背中だけを見ていればいい。いつも見ているこの背中は、わたしに安心感を与えてくれる。
「彩乃」
周りを囲んでいる男の人とやりとりしていたお兄ちゃんがわたしを呼んだ。
いつのまにか一人を羽交い絞めにしていて、その人が刀を持っていた。
うーん。構えなさいってことかな?
お兄ちゃんがちょっと緊張しているし…。ここは加勢しないとね!
わたしは剣道を習っているから、ちょっとは脅せると思う。
お兄ちゃんからも言われたの。「殺すのは簡単だけど、殺すよりもどうやって相手が怖がって逃げるかを考えなさい」って。人を殺すのはいけないよね。
だから目一杯、相手が怖がってくれるように、隙が無いように剣を構える。
しばらくして、話が終わって、わたしは剣を返した。どうやらここにいることになったみたい。やっぱりお兄ちゃんがいれば大丈夫。
でも、ここどこかな。ここのおうちは木で出来ていて、すごく木の匂いがする。いつも感じている排気ガスの匂いもガスの匂いも、石油の匂いもしない。車が走る音も、電車が通る音も、飛行機が飛ぶ音もしない。
わたしは首をかしげた。なんかヘン。
みんなが話している言葉も、日本語じゃないみたいに聞こえる。分かる言葉もあるから、日本語…なんだと思うんだけど、すごく訛っている。
それから空が凄く綺麗。土埃が凄いけど、でもコンクリートのチリとか、排気ガスのヘンなものとかが、飛んでない。
お兄ちゃんと一緒に家の中を案内されて、今日からここがわたしたちのおうちになった。
どうやらここは江戸時代らしいよ?
江戸時代って、徳川幕府の時代だよね? 明治の前? なんでそんなところに来ちゃったのかな。
ここは「壬生浪士組」というところで、あとで「新撰組」になるんだって。
男の人ばっかりで、わたしにはいきなりたくさん、男の人のお友達ができた。
しょっちゅう剣を教えてくれるのは総司さん。やさしくて、甘いものを一緒に食べたりしてくれる。それからたまに相手をしてくれるのが平助くん。あと、よく話しかけてくれるのは左之さんと新八さん。
お兄ちゃんとよく話してるのは、斉藤さん。えらそうな人は土方さん。ちょっと怖い。目がギロッってするの。
あとの人はよくわかんない。
巡察って言って、京の街を見回るのがお仕事なんだって。だからわたしも一緒に行ってくるの。




