第23章 偽りの契約(9)
畳の上で裾を乱して、ぐったりとした小夜さんを、僕は助け起こした。
「大丈夫ですか」
小夜さんが僕の腕に支えられたままで、じっと僕を見る。
「はい…あの…何が…何が起こったのでございますか」
「一族に加わったんですよ」
「え? あの…」
僕は善右衛門さんを見た。
「誰か、用意できますか?」
一族に加わったばかりだから、多分、喉が渇いているはずだ。
「誰か呼びましょう」
善右衛門さんが、障子をあけて「誰かいないかい」と大声を出した。
しばらくして、十歳かもうちょっと行ったかと思われるぐらいの男の子が現れた。
「すみません。皆さん忙しくて、わたしが参りました」
いっぱしの大人のような顔をして、廊下に手をついて頭を下げる。
「ちょっと中に入っておくれ」
そう善右衛門さんはその子を入れた。
はぁ。まあいいや。若いほうが血の気はあるでしょ。
僕は力を使って、その子の動きを封じる。
「小夜さん、喉が渇いているでしょ? 飲んでください。でも殺さない程度に」
「な、何を…」
小夜さんが、僕の腕の中で怯えたような表情を見せる。
「血ですよ。お腹、空いているでしょ?」
「血…。何故でございます…」
声が震えている。
「僕らの一族は、血が必要じゃないですか。だからですよ。大丈夫です。途中で止めれば、この子を殺すことはありませんから」
「そ、そんな…」
「小夜さん?」
「そんな…おぞましい…。私をからかっておいでに…なるのですか…」
え?
小夜さんはよろよろしながらも、僕の腕から逃れると、距離を置いた。両手を床についたまま肩で息をする。
「宮月様…。血を飲めなんて…なんて…酷いことを…おっしゃる…」
次の瞬間に、小夜さんの目が赤くなった。
「血が…」
「血が欲しいでしょ? 大丈夫です。僕が止めますから、その子の首筋に口をつけて」
おずおずと小夜さんの手が伸ばされる。
そして途中で止まった。目の色が元に戻る。
「嫌です…。そんな…おぞましい。人の生き血を…啜るなど…」
はっとして、僕は善右衛門さんを見た。




