第19章 正体(1)
卯月(四月)。春嶽公は正式に京都守護職を辞し、容保公が元の職に返り咲いた。結局、新撰組は容保公の配下として動くことになり、お偉方の配置転換によるゴタゴタは終わりを告げた。
----April showers bring forth May flowers.
四月の雨は五月の花を運んでくる。
--- I know it. (わかってるよ)
それでも…雨はうっとうしい。
「あ~。また今夜は雨か…」
襲撃による訓練とか、巡察とか、雨とか…このところ、献血活動ができなくて、僕と彩乃は少々干上がりぎみ。飢えて仕方ないというところまでは行ってないけど、それでも早いところ夜のお散歩をしたいもんだ。
雨の日はどうしても人が消えるし、僕らも濡れるから外に出ていたことがバレる可能性はあるしね。
こういう日は寝るに限る!
翌朝、稽古の後で、僕は土方さんに呼び出された。
呼ばれてついていって、近藤さんの部屋に入ったとたんに、思わず回れ右をする。でも逃がしてくれなかった。土方さんに首根っこをつかまれた。
「待ちやがれ」
「いや…見逃してください」
じたばたしてみたけれど、離してくれないので、土方さんに言われるままに大人しく座る。
一体、何これ。幹部連中が勢ぞろい。
正面には局長近藤さん。その横に総長山南さん。
近藤さんの反対側には諸士調役兼監察の皆さん。山崎さん、島田さん(例の巨体の甘党の人)、それから一応顔と名前だけ知っている浅野さん、川島さん、林さん。それから勘定方の三人。河合さん、尾関さん、酒井さん。
山南さんの横にはずらりと副長助勤が並ぶ。総司、がむ新くん、左之、平助、源さん(井上源三郎さん)、斉藤、早太郎くん。あとは顔と名前だけ知っている尾形さん、松原さん、武田さん、谷さん。後ろには、僕が逃げないようにかそのまま座った副長土方さん。
いや~、幹部だけでも増えたよね。
っていうか、なんのつるし上げ? これ。
「やあ、俊くん」
近藤さんが明るい声でにっこりと言った。声とその場の雰囲気が全然そぐわないんだけけど…。
「君の知恵を借りたくてね」
は?
「ここからは、機密情報だ。ここにいるものも、絶対に漏らさないように」
ぐるりと近藤さんが真面目な声で言って一同を見回すと、皆が真剣な顔をして頷く。
「君もね。俊くん」
「はあ」
僕は曖昧に頷いた。
「長州藩に動きがある。どうやら何かをたくらんでいるらしいんだが、なかなか尻尾をつかめない。それで今後、どう動くか…という会議だ」
「なんでそれで僕が呼ばれるんです?」
「そういうの、得意だろ?」
近藤さんが僕をじっと見た。っていうか、幹部連中の視線が全部僕に集まる。勘弁してよ。




