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第18章  恋の行方(8)

 一瞬、彩乃は僕の隣に座ろうとして、総司を見て戸惑って…。


 まったく。


 僕は仕方なく、ぽんぽんと座るように地面を叩いた。それでようやく総司と僕の間に座る。そして嬉しそうにどんどんお重を開け始めた。ポテトフライに、鳥のから揚げ。にんじんのグラッセ。


 僕はさっきの問いに答えるべく総司のほうを見た。総司は難しそうな顔をしている。


「これは僕の故郷の伝統料理。食べてみてよ。そこそこいけると思うよ?」


 みんな恐る恐るという感じで、箸に手を伸ばす。その中で彩乃は嬉しそうに全部のお重を並べ終わると、箸でハンバーグ(もちろん小さなサイズにしてある)を口の中に入れた。


「すごい! ちょっと味が違うけど、でもハンバーグだよ」


 そりゃそうだ。ソースなんてないから、そういうのも手作りで、少々味が違ってしまうのはご愛嬌。


 彩乃が食べ始めたのを見て、総司もハンバーグを口に運んだ。


「面白い味だけど…いけますね」


「でしょ?」


 総司の言葉に、皆が安心したように手を伸ばし始めた。


「お兄ちゃん、これ何?」


 一番下にあったお重の中身に彩乃が首をかしげる。


「あ~、それはデザ…甘味だから一番最後」


 実はケーキもどきも作ってあった。小麦粉がうまく膨らまなくて、種無しパンの間に蜂蜜を塗ったようなものになっちゃったけど、果物の砂糖煮も挟み込んだから、食べられる味にはなっている…と思う。


「この芋、なんか不思議な味がするな」


 左之が言う。


「スパイス…っと…味付けを工夫してあるからね」


 薬問屋で手に入れた漢方薬を調合したものだ。わりと現代で食べる某ファーストフード店のふりかけ的な味になったんじゃないかなぁ。


 彩乃はニコニコしながら食べているのを見れば、ほとんど徹夜で現代風の調味料を作った甲斐があったというものだよ。


「こんな食べ物、聞いたことないぜ? 俊の故郷ってどこだよ」


 鳥のから揚げをほおばりながら、平助が言った。


 この鳥のから揚げも、白い髭のおじさんが有名なお店の味をマネしてある。


「あはは。結構遠いところだよ」


 そう言って僕は酒を注いでごまかした。総司と斉藤の視線は感じるけど、彼らは僕と近藤さんの約束を知ってるからか、何も言わない。




「こほん。こほん」


 総司が咳をした。最近総司は軽い咳をしていることが多い。


がむ新くんが顔を覗きこむ。


「総司の咳、抜けねぇよな」


「咳だけなんですよね。身体はなんともないんですけど」


 と答えつつ、また咳をする。


「一度、見てもらったほうがいいと思うぜ?」


 と今度は平助が言えば、周りも同意したが、当の本人は、


「嫌ですね。咳ごときで。そんなに心配することないですよ」


 と笑っていた。その横で僕は思わずそっと目を伏せるしかなかった。



 こうして僕らの花見は和やかに終わった。


 その日の夜、僕は彩乃に紅をプレゼントした。現代風に言うなら口紅だ。もしかしたら、いつか、そういうものをつけたいと思う日が来るかもしれない。そんな予感を感じながら。




 ちなみに、このころから、新撰組では脱走が相次いだ。


 気が弱くて、いつも皆にからかわれていた馬詰親子が脱走したのも、この頃だった。

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