第18章 恋の行方(6)
いつもの朝。いつもの稽古。そして、いつもの斉藤。
僕からの攻撃を避けて、合気道の技を習得するべく、手をつかんではひっくり返してくる男。斉藤一。
うーん。リリアが斉藤をねぇ。彩乃の目を通して斉藤は知っているだろうけど、彩乃が斉藤と話しているところをあまり見たことがない。どこに接点があったんだ? なんだかよく分からない。
「なんだ?」
気付いたら、斉藤が怪訝な顔をして上から覗き込んでいた。
いけない。受身とって寝転んだままだった。
「いやいや。なんでも無いよ。次は剣を教えてもらう番だから」
そう言って帯刀する。斉藤も帯刀すると僕に言った。
「今日は振り向き様に剣を抜いてみろ」
そんなの簡単でしょ。そう思って抜いたとたんに、鞘がザリ…と音を立てた。さすがに慣れたもんで、それ以上は抜かずに手が止まる。
「あれ?」
斉藤がにやりと嗤った。
「振り向き様の抜き打ちは、稽古が必要だ」
相変わらず口数が少ない。
しっしっと追っ払われて、数歩下がると、斉藤がこちらに背を向けて立つ。
次の瞬間、斉藤が振り向いたと同時に、白刃の切っ先が目の前にあった。
「振り向くときに、鞘を返すのと、鞘引きと、抜きつけを同時に行う」
そういうと、もう一回やって見せてくれる。
「やってみろ」
後ろを向いて、身体を回しながら抜く。確かに稽古がいるけれど、最初のころよりはスムーズに抜けるようになったかな。何度かやれば習得できそうだ。
「身体の動きに気を取られるな。まずは手の動きに集中しろ」
身体は無意識で。手のほうは意識的に。
「まだ抜く瞬間に人差し指に力が入りすぎだ」
斉藤が僕の前に立って拝むように手を合わせた。そしてそれを上下にずらす。
「拝み手」
上下にずらしながら、刀を握る手になる。
「意識は小指と薬指におく」
なるほど。
それから僕は、斉藤の前で振り返っては抜刀するという稽古を繰り返した。




