間章 手つなぎ鬼(2)
「えっとね。鬼ごっこなの。でもね、鬼に触られた人は鬼と手をつながなくちゃいけないの」
そこでちらりと彩乃さんが私を見る。
「最初の鬼は、わたしと総司さんね?」
別に構わない。どうせ子供の遊びなのだ。そして子供たちが逃げていく中で鬼ごっこが始まった。
すぐに一人二人と捕まえる。彩乃を見れば、同様にしてやはり数人が手をつないでいた。それで走るのだから、お互いに振り回される。それが子供には面白いらしく、楽しそうに甲高い声を上げていた。
「総司さん、そちらからお願いします」
あと数人というところで、彩乃さんが言う。なるほど囲い込みだ。私と手をつないでいた子供たちも、何をしようとしたか分かったようで、すぐに残った子たちを囲うように円を作っていく。
「うわっ。ひでっ」
「こっち、くんな」
そんな声を上げながら、最後まで残っていた足の速い男の子たちが逃げ回る。だが囲まれてしまえば逃げ場は無い。
「触った!」
端にいた小さな女の子が嬉しそうに言った。普段であれば捕まえられない相手を捕まえたのが嬉しかったのだろう。満面の笑顔だ。
最後の一人が捕まって、手をつないで作っていた円が崩れる。私の手に収まっていた子供の手も離れていった。
「もう一回やろう」
「今度は最後につかまった人が鬼」
「え~」
そんな声が周りでしている。ふっと視線を感じて、そちらを見れば源さん、井上源三郎さんが呆れたようにこちらを見ていた。稽古帰りだろうか。冬だというの汗が首筋を伝っていた。もしかしたら壬生寺の裏で稽古していたのかもしれない。
近藤先生の兄弟子ながら、源さんは試衛館の同門の中でも剣の腕がいいとは言えない。それでも努力を惜しまない人だ。
「朝晩の稽古以外にも稽古されるとは、熱心ですね。そのうち私が負けてしまうかもしれません」
挨拶代わりに声をかければ、ますます呆れたように目が大きく見開かれてため息をつかれた。
「そう思うのならば、沖田さんも稽古をしたらいかがですか」
思わず笑ってしまった。確かに。だが今はこの時間が大切だ。
「そうですね。ではそのうちに」
そう答えると、これは相手にしていられないと思ったのだろうか。源さんは首を振って行ってしまった。




