第16章 血脈(4)
「知らなかったか? 俺の能力」
そう言った瞬間に父さんの姿がぼやけ始める。そしてすぐに1mほど移動したところに現れた。
「時空を渡れる」
は?
僕は眉をひそめた。
「それって、歴史を歪めまくり?」
「いや、歪められないらしい」
父さんがくぃっと肩をすくめる。
「どうやら歴史っていうのは、大きな流れでは変えるのが難しいらしくてね。まあ、例えば、四回ぐらい試しに女王陛下を暗殺しに行ったけど、成功しなかった」
「え? ええ?!」
「それからジャンヌダルクも救えなかったし」
「いやいや。ダメでしょ。それ」
「結局、歴史の流れを左右するような人物は、助けられないし、殺せない。ついでに歴史の流れを左右するようなお宝も手には入らない。まあ、小金は稼げるけどね」
僕は愕然として自分の父親を見た。
「まあ、つまり好き勝手やって多少変わっても、大枠はきちんと歴史どおり流れる」
「なんで150年後に時空の穴が開いてたわけ?」
「参考資料が欲しかったから。自分とちょっとしたもの以外を運ぶには、穴がいるんだよ。すぐふさがるもんなんだが。お前ら、運が悪かったな」
あっけらかんと言って、パイプから煙を吸い込んで、吐き出した。
煙の匂いに彩乃が顔をしかめる。
「あ~、父さん、彩乃は嗅覚も敏感だから、タバコ、止めてくれると嬉しい」
そう言うと、父さんは片眉だけ上げて、彩乃を見た後に火を消した。
「ちなみに僕たちをあの時空に戻すことは?」
「可能だよ」
「じゃあ…」
思わず前のめりになる僕たちを、父さんは片手で制した。
「でも、色々条件をそろえないといけない。今すぐには無理だ」
「え?」
「この時空だったら四年か五年後…ぐらいかな」
「四、五年…」
「条件が整ったら教える」
僕は頷いた。頷くしかないしね。




