間章 手の内
--------- 土方視点 ------------
食後に酒を飲んでいると、手の内の話になった。刀を握るときにどうやって握るかっていう話だな。
「恥ずかしながら…近藤先生の手の内がわかりません」
隊士の一人が言いやがった。まあ、な。かっちゃんは手の内どころか、構えも独特だから、ちょっとやそっとじゃ分からねぇと思う。だが、それを言うわけにはいかねぇだろ?
「わかんねぇじゃねぇんだよ」
俺の言葉に、言った隊士の身体がびくりとする。
「そういうのは見取り稽古だ。見て盗め。見るだけで分からなければ触って理解しろ。筋肉の付き方なんかで、どう握るか、わかるもんなんだよ」
そういうと真面目な顔をして頷きやがった。まあ、嘘は言ってねぇ。かっちゃん以外の奴の手の内や構えなら、まだ分かりやすいだろうよ。頭で理解しても、身体ができるってこととは別だけどな。
「そういえば、天然理心流では柄頭を握るんですね」
また別の奴が言ってくる。
「斉藤先生は柄頭を握りませんよね」
「そりゃ、流派の違いって奴だ」
返事をすれば、さらに別の奴が俺の刀に視線を移した。
「確かに土方先生の柄頭は丸いですよね。掌になじみそうです」
一人が指摘すれば、俺の脇においてあった刀の柄を皆が覗き込んだ。
「握り易いようにだ。握るって言っても、握りしめるんじゃねぇぞ。鶏卵を握るがごとくって言うだろうが」
そう言ってやれば、何人かが頷く。
「沖田先生にもそう指導されました」
「どうしても斬ろうと思うと力が入ってしまって。手首が硬い、硬いってピシピシと叩かれました」
ピシピシやったか。ま、手首についちゃ、正しい。
「がっつり握ったら、斬れるもんも斬れなくなるぜ」
酒で唇を濡らしつつも、ふっと嗤えば、同じことを総司からも言われたらしい。目の前にいた数人が面目なさそうに頭を掻いた。慣れねぇうちは仕方ねぇんだが、稽古が足りねぇ証拠だな。
「刀を自分の腕の延長に思えるようになったら、おめぇらもちっとはマシになるぞ」
「腕の延長ですか」
「それだけ刀を振れって言うことだな。そうすりゃ、手の内も自ずと変わってくるってもんよ」
それぞれが自分の手をじっと見る。
「刀も違えば、手の大きさもそれぞれ違うんだ。能じゃねぇが、守破離だな。教えを守って言われたとおりに手の内を作ってみる。それで練習していっぱしになったら、自分の手になじむ手の内を探していくって奴だ」
なるほど…と感心してやがる。
「だが、おめぇらが破るのも離れるのも、まだ早ぇよ。まずは言われた通りのことができなけりゃ、その先は早すぎるってもんだぜ」
「精進します」
俺の言葉に、目の前の奴らが素直に頭を下げた。まあ、かっちゃんの手の内の通りにやるのは無理かもしれねぇけどよ。
それだけは心の内で言うに留めておいた。




