第15章 酔っ払い(9)
そんな感じであっという間に、数日たち、睦月の八日。時の将軍、徳川家茂が大阪にやってきた。
前日から僕たちは、自分たちの持ち場を確認したり、見回りをしたり。なんかもう、警護というよりは、そわそわしてるっていうほうが表現としては合ってる感じだった。
もちろん前日の夜には、近藤さんの大演説。ついでに土方さんの激励。とにかく将軍様のために、がんばれって感じ?
当日は、持ち場を決められて、安治川を見ながら警備。ちなみに例の羽織は夏用の麻のものだけなので、冬は無いのと、斬られたり血で汚れたりしたので、大分着る人が少なくなっていた。ちなみに僕と彩乃も着てない。
将軍様を直接見られるはずもなく。とりあえず真面目な顔をして、ぼーっと立ってる。
いや、もうめちゃくちゃ寒いし、暇だし。朝から居たんだけど、結局、将軍様が来たのって午後なんだよね。あくびとかしようもんなら、殴られそうだし。暇で、暇で。
無事に大阪城に入城したのが確認されて、暗くなってからやっと持ち場から解放された。
「凄いですよね。我々が、将軍様の警護ですよ!」
そう興奮しながら言うのは、八十八くん。船での死にそうな顔はどこへやら。大興奮だ。
「新撰組に入った甲斐がありましたよ! これは手紙に書いて、郷里の母に知らせなければ!」
そう言って、今にも手紙を書き出しそうだった。
「あ、うん。いいんじゃないかな。お母さん、喜ぶと思うよ」
と適当に返事をすれば、
「宮月さんも郷里に手紙を出しましょうよ! きっとご両親は感激されますよ!」
と言ってくる。
思わず苦笑いした。
もう両親ともいないしね。いや、今の時代ならいるけど…ヨーロッパまでは届かないし。手紙が届いたとしても感激は…しないんじゃないかなぁ。何やってるんだって呆れられる気がする。
「いや~、僕はいいや」
そう笑って答えれば、早太郎くんが聞きつけて、僕らの横に並んだ。
「なんすっか。何の話、してるっすか」
「郷里の家族に、今日のことを手紙にしようと」
そういう八十八くんに、早太郎くんも同意する。
「いいっすね! 俺も出そうと思ってったすよ」
そう言って意気投合し始めた。
故郷に錦を飾る…か。そうだよね。みんな一旗上げたくて、新撰組に入ってるんだもんね。
僕は盛り上がっている八十八くんと早太郎くんを置いて、足を速めた。




