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第15章  酔っ払い(7)

 酒を注ぎつ、注がれつ。宴会は段々と無礼講になっていく。ついでに言うと、かなりの人数が彩乃のところにお酒を勧めにきている。


「止めなくていいのかよ」


 平助が僕の隣に座ったかと思うと、彩乃のほうを見て言う。


 彩乃はあちこちで「おいで、おいで」と呼ばれて、僕から離れたところでお酒を注いでもらっていた。注いだら注ぎ返すのが礼儀と教えておいたのが悪いほうに転んで、みんなが彩乃に注いでもらうために、注がれている状態。


「あ~、まあ、いいんじゃない」


 僕は自分の杯を空けながら言った。


「おめぇも、うわばみだけど、彩乃もすげぇな」


 がむ新くんまで寄ってくる。


「まあね。うちの家系、強いんだよね」


「いやぁ。強いなんてもんじゃねぇだろ。彩乃、もう一升は飲んでんじゃねぇの?」


 がむ新くんは呆れたように言った。


「あれ? そんなに飲んでる?」


「飲んでる。飲んでる」


 平助まで頷く。


 あ~、それで隣にいる総司は気が気じゃないわけだ。彩乃が動くにつれて、さりげない感じで動いていってるんだけど、バレバレ。けなげだよね~。


「彩乃」


 僕が軽くそう呼ぶと、ぱっとこっちを見た。


「そろそろ」


 そう小さな声で言えば、通じたのだろう。周りの人になにやら言って、こっちへ戻ってくる。


「え? 今ので通じたのかよ」


 平助が驚く。


「まさか、この大騒ぎの中、あの声で聞こえたんじゃねぇよな」


 がむ新くんまで言う。


「いやいや。なんか言ってるって思ったんでしょ」


 危ない。危ない。


 あんまり表だって彩乃を呼び戻すとよくないな~って思ったから、名前を呼んだだけにしたんだけど、裏目に出た。


「ま、彩乃も飲みすぎたみたいだし、僕も結構酔ったから、引き上げるよ」


「おい。まだ早ぇだろうよ」


 がむ新くんが引き止めたところで、彩乃が戻ってきて、総司もついてきて、そして左之が来た。


「俊が部屋に戻るってよ」


 と平助が言ったとたんに、左之が僕の肩に肘を置く。


「なに~。俺様の腹を見てからけぇれぇ」


 酔っ払ってるな~。左之。


「俺様の腹はなぁ、かな」


「はいはい。金物の味を知ってるんだよね」


「俺様が言おうとしてることを、先に言うなぁ」


 あ~、ダメだ。本当に酔っ払ってる。いきなり片袖を脱ぎだした。


「いや、いいから。左之。見せなくていいから」


 僕が止めるのも聞かずに、どんどん着物を脱ぐ。いや、止めて欲しい。男の腹、見ても面白くないから。それに彩乃の前だし。


 一方で彩乃は面白そうに、じっと左之を見てる。あ~、まあ、現代じゃあ、水着とかあるわけで。男の上半身裸ぐらいだったら、驚かないけどさ。でも慎みってものを知ろうよ。


「ほれ~」


 左之が腹の傷を見せた。昔、切腹しそこなった傷なんだって。酔うたびに見せてくれるんだよ。いやいや。別に見たくないから。


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