第11章 冬といえば(4)
彩乃に僕の蒲団を敷かせてから、水を汲んでこさせる。僕はそっと総司を蒲団に下ろして、とりあえずかけ蒲団をかける。
総司はちっとも目を覚ます気配がない。呼吸が荒くて苦しそうだった。どうしてこんなになるまで放っておくかなぁ。
彩乃が一度戻ってきたところで、今度は台所にお湯を取りに行かせた。手ぬぐいを出して、水に浸してから総司の額に置く。本当に凄い熱だ。
現代だったら、何度ぐらいあるかとか、風邪かインフルエンザかとか、すぐ分かるのに、ここでは分かる術がない。
「あ、お兄ちゃん、お湯」
彩乃が持ってきたお湯を受け取って、もう一度彩乃を台所にやって炭に火を貰いに行くように頼んだ。七輪用だ。それと、彩乃を追い出す意味もあって、炭にしっかりと火がつくまでは戻ってこないように言い渡す。これでしばらく稼げるはず。
もう一枚手ぬぐいを出してから、総司の着ているものを全部脱がす。彩乃を追い出しのはこのためだ。とにかく身包み全部はいだ。脱がした着物は汗でぐっしょりとしていた。
そしてお湯に手ぬぐいを浸して、総司の身体を拭く。温かい手ぬぐいが熱いぐらいの温度に、凄い勢いで温まる。ついでに言うと、凄い勢いで汚れる。
石鹸ないしね。風呂は数日に一回だしね。
仕方ないなぁと思いながら、僕は自分の着替えを一式出した。多分総司の部屋で清潔なそれを探すよりは、僕のを貸したほうが早い。幸い新品のふんどしもこの前何本か用意したばかりだったし。とにかく全身着替えさせた。
それから蒲団をしっかりとかけた。
「お兄ちゃん。炭貰ってきたから障子開けて?」
障子をあけると、炭入れと、長い箸みたいのを持った彩乃が現れて、僕らの部屋の七輪に炭を入れる。これで少しは温かくなるはずだ。
総司の着替える前の着物…洗ったほうがいいよね。僕の頭にさっきみた総司の部屋の光景もよぎる。
まだ昼過ぎだし、洗っても乾く…かな?
「彩乃。ここにいて、時々頭の手ぬぐい替えてあげて」
「うん」
彩乃は息の荒い総司を見ながら、泣きそうな顔で頷いた。
「大丈夫だから。多分…ただの風邪だから」
「ホント?」
「うん…多分。とりあえず、ここにいて」
「うん」
本当に風邪なのか、なんなのかは分からないけど、とりあえず彩乃を安心させたくて僕はそういって、総司の着物と、汚れたお湯が入った桶を持って、部屋を出た。
総司の部屋にもう一度入り、おせっかいだとは思ったけど、溜まっていた洗濯物を引き取り、井戸に行って洗って干した。
それから部屋から水筒代わりの竹筒を持ってきて、井戸水を入れる。
「彩乃、総司の意識が戻ったら、飲ませてね」
また彩乃がこくんと首を振った。
「ちょっと薬を探してくるから」
「うん」
薬屋さん…ってあるのか? そうや薬売りっていう仕事があるぐらいだし、結構薬って古い歴史があるはずだよねぇ?
大体僕ら自身が薬屋や医者と無縁の生活をしているから、あまりそういうのに目をやっていなかった。
一応、世話をすることは多かったから、応急処置とか、対処方法みたいなものは頭の中に入っているけど。どうしようかな。




