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間章  真夜中の顔

--------- 斉藤視点 -----------


 井戸でざっと刀の血を洗い流した。一度川で洗ったけれど、それでも落ちなかった分をもう一度洗い流す。


 極秘任務を終え、独り後始末をしている真夜中の井戸。誰もいないと思っていたのに、気配を感じた。普段なら分からないぐらいの微かな気配。気が立っている今だから感じたといえる。


 背中に感じる視線に、ひゅっと刀を横一文字に薙いだ。

 音もさせずに気配が一歩遠ざかる。俺の間合いの外に。


 俺は息を呑んだ。


 気配からして、相当の手練てだれと判断したのだが、そこにいたのは女だった。


 宮月彩乃。隊士唯一の女。宮月の妹だ。


 刀が目の前を走ったというのに、顔色も変えず、じっとこちらを見ている。


 俺に興味を持ったような視線を受けているうちに、まるでこちらが狩られるような感覚を覚えた。気を抜いたら今にも喰いつかれそうだ。


 見る間にその唇が弧を描いていく。その表情を描写するならば、微笑んでいるはずなのに、その微笑に温かみはない。そして目が細められた。感じる違和感。


 この女は、本当に宮月の妹か?


「血の匂いがする」


 そうポツリと女が呟く。


「着替えたほうがいいよ?」


 声音はまったく同じなのに、声の調子が昼間と違う。


 この威圧感はなんだ? 俺が蛇に睨まれたカエルのように動けなくなっている。こんな小娘一人に。馬鹿な。




「彩乃」


 妹を呼ぶ宮月のひそやかな声がした。その瞬間に女が振り返る。


「おやすみなさい」


 そう言って女は、軽く頭を下げると、今度は気配をさせて去っていった。


 とたんに無くなる威圧感。


 知らず知らずのうちに詰めていた息を吐き出す。刀を握りこんだ手は、人を斬った直後のように強張っていた。


 思わず自分の唇の両端が上がるのを感じる。面白い。


 見よう見まねで剣が少しばかり使える人形のような女だと思っていたが、兄同様、一癖も二癖もあるらしい。面白いじゃないか。


 強い人間は好きだ。道場剣術ではなく、実戦で強い奴とやりあうのは面白い。


 いつか本気の宮月とやりあってみたいと思ったが、もう一人増えた。あの妹にも、いつか本気を出させて剣を交えてみたい。


 俺は無意識のうちに舌なめずりをしていた。いつかあいつらの本気を引き出してやる。


 そう考えながら、俺はまだ血の痕が残る刀の手入れをするべく部屋へと戻った。



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