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第9章  新撰組(7)

 辺りが一層暗くなり、そろそろ空が白み始めてもいいかな~というころ、がらりと襖が開く音がして、荒木田さんが出てきた。腰のものは差していないものの、回りを見ながら廊下を歩いてくる。なんとなく漂う殺気。


 それを僕は目の端に捉えて、天井から飛び降りた。もちろん音も無く。


 彼はこっちに向かって歩いているんだけど、多分、殆ど見えないんじゃないかな。一番暗い時間だから。手探りをするようにして歩いてくる。


 見るからに、そこが怪しいよね。なんで灯りをもってこないんだっていう。


「荒木田さん」


 僕は正面から声をかける。


 身体が思いっきりビクリとなった。飛び上がるほど驚くってこういうことを言うんだな。うん。そして荒木田さんは、きょろきょろと回りを見回して立ち止まった。やっぱり見えてないらしい。


 僕は足音を立てて、がむ新くんの部屋の前から歩いて、荒木田さんのほうへ行く。


「荒木田さんですよね?」


「あ、ああ…」


 荒木田さんがぼそぼそと返事をしたところで、僕は少し大きくほぉっと息を吐いた。


 とたんに荒木田さんが静かにするように言ったので、慌てたように僕は息を呑んで見せる。そして続けた。でも辺りの静けさにしては大きめの声で。


「荒木田さんだった…良かった~。なんか厠に行って、戻れなくなっちゃって…。どうしようかと思ってたんですよ~」


 僕はもう一度、大きく息を吐いて、ほっとしたような声で荒木田さんに告げる。


「いや~。知り合いが居てよかった」


「お前、下の部屋だろ」


 つっけんどんに、声を潜めながら荒木田さんが言う。僕の姿はほとんど見えてなくて、気配だけでこっちに喋りかけているらしい。目の焦点が合ってないからね。僕は楽勝で見えるけど。


「いやいや。なんか躓いたんで、上がったら階段だったらしくて、どうにかなるかと思ったら、わかんなくなっちゃたんですよ」


 邪気の無い声で言うと、荒木田さんは呆れたような顔をした。信じてくれたかな?


 僕の声を聞きつけたんだろう。襖が開いて、蝋燭の明かりとがむ新くんの顔が覗いた。


「おめぇら、何やってんだ?」


 荒木田が息を飲む。舌打ちが聞こえてきそうだった。残念でした。


 次の瞬間、荒木田が笑顔を作る。それと同時に、後ろのほうの襖が開いたかと思うと、他の三人が廊下に出てきた。耳を済ませて聞いていたかのようだ。実際、待機してたんだろうけどね。


 僕は思わず意識を背中に集中させたけど、後ろから感じるのは緊張感だけで殺気は無い。殺すのを諦めたかな。


「永倉さん、そろそろ夜が明けるので、屯所に帰りませんか」


 泊まろうって言ったのは自分の癖に、しれっとした顔で、荒木田さんが言う。


 がむ新くんは眠れなかったようで、目の下に隈ができていた。ついでに言うと荒木田さんにも、まだ廊下の後ろのほうに居る三人にもできている。


 蝋燭の明かり程度じゃ、お互いには気づかないと思うけど。お互いに眠れなかったね。僕は多分、隈なんかできてないよ。徹夜なんて一週間ぐらいしてもどうってことないからね。


 だからわざとあくびをして、伸びをした。


「もうひと寝入りしようと思ったのに…」


 そういうと、がむ新くんが呆れたような顔をした。


「帰りましょう」


 後ろから三人も出てきて、そう口々に言う。


 


 結局、僕らは朝日が出るか出ないか、空が白み始めたぐらいに、みんな一緒に屯所に戻り始めた。


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