第9章 新撰組(5)
横で中村さんが不安そうに僕を見た。
「実際は強い…んですよね?」
「いや~、どうかなぁ」
僕が頭をかくと、ますます中村さんが不安そうになる。
そんな僕の頭をがむ新くんがはたいた。
「いてっ」
「おめぇ、中村を不安にさせてどうすんだよ」
いやいや。でも、なんとも言えないでしょ。こういうときは。
僕がへらへらと笑っていたら、がむ新くんが、すくっと立った。
「あ~、俺、ちょっくら見てくるわ」
そういうと、僕らが声をかける間もなく、部屋の外に滑り出していってしまう。まったく本当に我武者羅なんだから。
我武者羅とは、後先考えずに、目的に向かってまっすぐに突き進む様子のこと。なんというか、平助の魁先生といい、みんな本当に猪突猛進というか、まっしぐらというか。
ま、そういうのも嫌いじゃないけどね。
ほどなくして、そーっと足音を殺して、がむ新くんは戻ってきた。座るとこそりとした声で言う。
「下に八人ぐらい侍がいて、なんか話してたぜ?」
そう言ったとたんに、僕の耳に階段を登ってくる足音がする。
僕はとっさにがむ新くんにお猪口を持たせると、お酒を注いだ。ついでに中村さんにもお猪口を持たせる。
「いや~、でも中村さん、がむ新くんの下じゃ、大変でしょ? 猪突猛進って感じだもんねぇ」
僕がわざと明るくそう言って、突然のことに目を丸くしている中村さんのお猪口にお酒を注いだ瞬間に、がらりと襖が開く。
「お待たせしました」
ぞろぞろと入ってくる四人。出て行くときはばらばらだったのに、入ってくるのは一緒なんだ(笑)
なんだかなぁ。
「どっかで迷いました?」
僕が聞けば、
「いや~、広くて、厠へ行くのが大変で」
と調子を合わせてくる。
中村さんも心得たもんで、
「じゃあ、飲みなおしましょうか」
と四人にお猪口を渡した。
いやいや…といいつつ、僕から徳利を取ると、がむ新くんに酒を勧める。
「まぁ、ご一献」
そう言って、がむ新くんを囲み始める四人。
あからさますぎ。
「お二人は帰ったらいかがかな」
そんなことを言い出す始末。すみませんね。お邪魔虫で。
でもこんなに怪しい雰囲気の中に、がむ新くんを置いて帰るわけにも行かず。
結局、次行くぞ~って話になって、祇園の一力という楼閣に入る。刀を預けないといけないとかで、僕らは刀を預けてお座敷に上がった。
僕、そろそろ巡察の時間なんだけどなぁ…。
そう思って、ちらりとがむ新くんを見るけど、がむ新くんは「絶対逃がさない」って顔をして、僕を睨み返してきた。
やめようよ。僕を巻き込むの。




