その⑧
彼女は書店に勤めているということもあって、沢山の小説を読む(一番好きなジャンルはミステリらしい)。そのためか、彼女の作品に対する感想は的を射て参考になった。
「あの作品…、特に悪いところが無かったんだよね。まあ、無いことはなかったけど…、うん、ほぼ誤差の範囲っていうか、書籍化の校閲の時点で軽く直される程度っていうか…」
二本目の手羽に手を伸ばしながら、茜さんが唸る。
「いやあ、難しいね。小説家になるってことは!」
「そうですね」
「応募総数って、いくつだったの?」
「確か…、四五〇〇はあったと思います」
「四次に残っていたのが?」
「五六です」
「うーん、そんなものかあ…。まあ、誇りに思ったらいいんじゃない? だって全体の一パーセントに入っているんだからさ。君は十分実力があるよ」
「賞をとらんと意味が無いでしょう」
「まあ、そうなんだけどさ」
茜さんはビールをくいっと呑む。そして、空になった缶の底をテーブルの上に叩きつけた。
「でもねえ、世の中って不思議だよね」
「……なにが不思議なんですか?」
「わからない? なんかさ、『なんでこいつが?』っていう人間が成功してるよね?」
そう言って肩を竦めた彼女は、テレビの画面に映っている女性タレントの方を見た。
その女性タレントは、デビューしてわずか三か月でブレイクし、今はCMやドラマ、バラエティーと引っ張りだこの人気だった。二週間前にはオリジナルソングも出していて、その週のオリコン一位に輝いていた。
「どう思う? このタレント」
「可愛いと思います」
「だけどさ、演技はへたくそだよね。あと、バラエティーのトークもダメ。司会者に振られても面白いこと返せないし…、まあ、おどおどしている姿が『可愛い』っていう奴もいるんだけど…。この前に出した歌だって、せっかく作詞作曲が良いのに、歌唱力が追いついていない。その作詞作曲をしたのも、他の有名アーティストのものなのにね」
茜さんは酒臭い息を吐きながらそうテレビの向こうのタレントに悪態をついた。
「メディアはさ、このタレントを『天才』だとか、『努力家』だとか言うけど…、私からしたら、『運がよかっただけ』だと思うよ? 運よく両親に綺麗な顔で産んでもらえて…、町を歩いていたら運よくスカウトされて…、運よく雑誌の写真集を飾って…、運よくそれが売れて…、運よくドラマが決まって…、運よくそれがヒットして…、運よくプロデューサーに恵まれて…。こういう奴はその内、出版社と癒着して、大して面白くない本を出すんだよ。これも運だ」
まあ、運も実力のうちなんだけどね。そう言った彼女は、二本目の缶ビールを開けた。
「小説だってそうだよ。どうしてこんな作品が? ってやつが賞を取るし、売れるんだよ。私さ、本屋で働いているから、毎日新刊が入荷されるわけよ。私が好きな小説よりも、作者の願望が色濃く出たようなくだらない小説の方が入荷数多いのを見ると、ちょっとむっとなるよね」
まあ、今はそういうのが売れるんだろうね。と、彼女は自虐気味に笑った。




