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12話・資格

 貴族学院での生活は順風満帆に過ぎていった。


 入学前にザフィリア様を狙った令嬢が厳正な処罰を受けたこともあり、変な気を起こす者がいなくなった。それとは別に、令嬢たちの関心が他に向くようになったという理由もある。



「オルニス様、二人きりでお話したいのだけど、どこか場所を移しませんこと?」


「いえ、お話なら教室(ここ)でお願いします」


「なっ……こんなところでは、とても」


「?人前ではできないような話をするおつもりで?」


「もう結構ですわ!」



 級友であるどこかの令嬢は怒って教室から出ていった。

 話があると言いながら、何も言わずに去っていく。機嫌を損ねてしまったようだ。若い貴族令嬢は気難しい。



「……オルニス。わたしの側についてばかりいないで、あなたもお友だちを作ったら?」


「必要ありません」



 はあ、とザフィリア様は溜め息をついた。

 こめかみを押さえ、頭を軽く横に振っている。



「遠回しな言い方では伝わらないかしら。あなたがわたしにべったりだから、他の令嬢たちからどんな関係かと聞かれて鬱陶しいのよ!」


「はあ」



 学位内では基本一緒に行動し、離れるのはお手洗いに行っている時と魔法学の授業の時だけ。傍目からみればどんな関係か勘繰りたくなるのだろう。



「私はウェンデルバルド侯爵家に仕えるオルガリエート伯爵家の者だと皆さまご存知ですよね?付き従うのは当然のことです」


「そうなんだけど、そうじゃないの。あなたの見目が良いから、みんな気になっているのよ!」


「はあ」



 容姿が整っていることは自覚している。そのせいで父親はコルネリアに目をつけられ、母親は死んだ。父親そっくりの私は人形のように扱われ、貴族女性たちの玩具にされた。

 だから、自分の外見も、外見に引き寄せられる女性も好きじゃない。勝手に敵視してくる男たちもだ。


 どこか冷めている私を気遣っているのだろう。ザフィリア様は、単なる護衛に過ぎない私にも学院生活を楽しめと言ってくださっているのだ。分かってはいるが、こればかりはどうしようもない。



「あなただって年頃なんだから、気になる令嬢とかいるんじゃないの?」



 そう言われ、頭に浮かんだのは橙色の長い髪をした強くて美しい炎のような令嬢の姿だった。お淑やかなお嬢様ばかりの貴族学院では珍しい存在だからだろう。妙に印象に残っている。


 でも、あの令嬢とは何の接点もない。同じ学院に通っているが、学年が違うから廊下ですれ違うこともない。彼女に関わることなどないのだ。



「……私はザフィリア様の護衛ですから」



 私の返答に不満を抱いたようだったが、ザフィリア様はそれ以上なにも言わなかった。





 身分を偽っている以上、特定の誰かと親しくなることはできない。級友とは当たり障りなく必要最低限の関わりだけに留め、護衛任務のかたわら勉学に勤しむ。貴族学院はサウロ王国一の教育機関。ここでなければ学べないことも多い。遊んでいてはもったいない。


 昔から知識を得ることは好きだった。

 幼き日、今は亡き父親から褒められた経験が私の勉強への熱意を支えている。ザフィリア様やパルテナ様の顔に泥を塗らぬようにしなければ、という気持ちもあった。


 気付けば貴族学院での最終学年になり、私は主席で卒業となった。


 あっという間の六年。

 その間に何度か問題が起きたが何なく解決した。私が表立って戦うようなこともなく、概ね平和だったと言える。


 結局、あの令嬢とはほとんど関わらずじまいだった。

 彼女は二学年上だから既に卒業している。貴族令嬢は卒業後に花嫁修行に勤しむのが通例だが、どうやら王国軍に入ったらしい。いくら強くても、女性の身で軍人となるのは大丈夫なんだろうか。


 私の護衛任務は終わった。

 ザフィリア様は十六になり、美しく成長した。年頃の女性に四六時中付き従うわけにはいかない。別の任務を与えてもらおうかと考えていたのだが──。


 エズラヒル州に戻ってすぐパルテナ様に呼び出された。

 師匠も同席している。髪に白いものが増えているが、まだ現役で働いているという。



「オルニス。貴方、王宮で働く気ある?」


「はい?」


「主席で卒業したから王宮から直接声が掛かったのよ。王宮に出仕するならザフィリア様がご結婚されてからもお側にいられるし」


「でも、私は」



 そもそも平民出身の私に王宮勤めなどできるはずがない。貴族学院だって、オルガリエート伯爵家の親族だと偽って入学したのだ。流石にこれ以上は周りの目を誤魔化せない。パルテナ様もそれくらいは分かっているはずだ。



「オルニスさえ良ければ、貴方を我がオルガリエート伯爵家の養子に迎えたいのだけど」



 思わぬ申し出に思考が固まった。

 何も言えず、ただ立ち尽くす。

 貴族の養子になる?

 この私が?



「実は私、結婚してないから子どもがいないのよ。このままだとオルガリエート伯爵家は跡取り不在を理由に爵位を返上しなくてはならないの」



 私が断れば、オルガリエート伯爵家が無くなる?



「保護してから十年、貴方の人柄や能力は十分見定めたつもりよ。その上で提案しているの」



 大恩あるパルテナ様からそこまで言われては断れない。

 私は養子になることを了承した。『跡継ぎに相応しい者が現れるまでの繋ぎ』という条件をつけて。

 パルテナ様はまだ三十代前半。これから相手を見つけて結婚するかもしれないし、もっと条件の良い養子を迎えられるかもしれない。



 私は王宮に出仕する資格を得た。

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