表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
58/114

僕にとっての彼女、彼女にとっての僕

「私の付き人……もう、辞めていいよ」


 それは、僕がこれからの話を切り出して、フルミネの口から出た最初の言葉。

 僕はこの言葉に動揺せざるを得なかったが、あくまで平静を装って彼女に訊ねた。


「……理由、聞いてもいい?」


 "付き人"は僕がフルミネと共にいるための口実だ。しかし、彼女からそんなことを言われるのは想定外だった。


 僕はフルミネを独りにさせないと、彼女自身と約束したのだ。

 それに、記憶のこともある。だから、理由がどうであれ、絶対に彼女から離れる訳にはいかない。


「分からなくなっちゃったんだ。どうしてここに戻ってきたのか」


 また分からないことが増えた。この言葉を聞く限り、僕の記憶が消えて、王都に戻ってきた理由も消えたのだろう。それは分かる。分かるけど、分からない……。


 ――どうして、僕の記憶と一緒に理由まで消えるんだ……?


「何の話してるのか、分からないよね。でも、もういいの。シンは無関係だからこれ以上巻き込めないし、巻き込むつもりもないから」


 そう言って、フルミネは笑った。それはまるで、自分を隠すような貼り付けの笑顔で――――僕はその笑顔が、無性にイラついた。


「僕は無関係じゃない」

「……え? どういうこと……?」


 フルミネは僕の言葉に困惑しているようだった。僕の記憶が無いのだから、そうなるのも当たり前だ。


 ……だからこそ、僕は話す。


「僕はフルミネに約束した。もう、独りにさせないって」

「約束……? シンは、何の話をしてるの……?」


 話しても理解されないのって、結構辛い。


「誓い合ったりもした。お互いを守り合おうって」

「……私、知らない……誰の話をしてるの……?」

「フルミネがその体になった原因も、僕は知ってる」


 僕がフルミネに向かって一歩だけ近づく。


「――っ」


 フルミネは怯えたような表情で、一歩だけ後退(あとずさ)る。

 一応、その反応も想定はしてたけど、いざやられると心に来るものがあるな……。


「……あ……ごめん、なさい……」


 ……何故か謝られた。


「フルミネが謝る必要ないよ。だって、怖いでしょ?」


 自分の知らない人が、自分のことを知っている。他人には絶対に言っていないことまで。そんなの、怖いに決まってる。


 僕の問いかけに対して、フルミネは自分の胸に手をあてて深呼吸をして――。


「シン、ごめんね」

「――っ、やめろっ! 謝るなっ!」


 それでも謝ることを止めないフルミネを、僕は怒鳴りつけてしまう。


 ……僕はそんな言葉を聞きたかった訳ではないのだ。

 それにこれは、現状に耐えられなかった僕の、一筋しかない希望に賭けてしまった心の弱さでもある。その賭けも逆効果で、僕はまたフルミネを苦しめている。


 ――フルミネはそんな僕に向かって、ゆっくりと歩み寄ってきた。


「……実は、私ね、王都までどうやって来たのか、記憶が曖昧なの……」


 そして……僕の胸に、そっと抱きついた。


「……フルミネ、無理しなくていいから」


 先程まであんなに怯えていたのに、どうしてこんな行動を取るのか分からない。だから僕は、フルミネが無理をしているようにしか思えなかった。


 しかし、フルミネはそのままの状態で話し始める。


「コメルさんに王都まで送ってもらったことは覚えてる。でも、もう一人……私の隣に、誰かがいたような気がする」

「――!? まさか、記憶が……!?」


 僕の言葉に、フルミネは首を横に振る。


「ごめんね、いたような気がするってだけなの。でも、それはシンだったんだよね」


 それを確信しているかのようにフルミネは言う。


「急に、何で……?」

「一階で、私のこと抱き締めたでしょ? あれ、他の人の目もあって凄く恥ずかしかったし、凄く痛かったんだよ?」


 フルミネがジト目で僕の顔を覗き込んでくる。僕はスーっと視線を横に逸らした。

 ……大変申し訳なかったとは思っております。本当に。


「……あと、凄く安心した……」

「――!」


 僕はその言葉に驚いて再びフルミネを見ると、彼女は柔らかく微笑んでいた。


「何でかは分からないけど、私、シンに抱き締められて安心したの。多分、シンのこと、体が覚えてるんだと思う」


 ……こんなに都合の良い話があるんだろうか。僕はフルミネに一つ、確認をする。


「フルミネ、本当に無理してない?」


 僕は心配だった。フルミネが僕に合わせて無理に嘘をついているんじゃないかって。


「無理してるのはシンの方だよ」

「え……?」


 僕が無理をしている? そんなことはない。フルミネは何を言っているんだ……?


「……根拠はないよ。でも、今のシンを見てると、私、苦しい……」


 そして、フルミネはゆっくりと言葉を続けた


「……さっきは逃げてごめんね。別にシンのことが怖かった訳じゃないの」

「なら、どうして」

「私、人を信じるのが怖かった。また、裏切られちゃうんじゃないかって思って、逃げてた…………でも、シンのことは、これからも(・・・・・)信じて良いんだよね……?」


 どうして、フルミネから王都に戻ってきた理由が消えてしまったのか、分かったような気がする。


 ――きっと、僕にとってフルミネが大きな存在であるのと同じように、フルミネにとって僕も大きな存在になっていたんだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ