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温泉聖女はスローライフを目指したい  作者: 皿うどん


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33/43

そのころ王都では4

「いっ、癒しの聖女様がお怒りです……! 陛下にお会いしたいと……」

「会わぬ! 先に自分が傷付けた令息を治せと伝えろ!」



 慌ただしくやってきた使用人は私を睨みつけた。下からじっとりと、恨めしそうに。



「使用人の分際で王を睨むなど! こいつをつまみ出せ!」

「かしこまりました」



 執事が追い出すと、ようやく部屋が静かになった。自分の荒い息だけが響き、耳の奥がどくどくとうるさい。



「あれだけ私をもてはやしていた貴族たちは何をしている!」

「癒しの聖女様を恐れて、今日は来ておりません」

「役立たずめ!!」



 どうしてだ。どうして何もかもうまくいかない!


 癒しの聖女が魔力切れで倒れた後、城は阿鼻叫喚の騒ぎとなった。癒しの聖女に与えていた令息は怯えて登城せず、誰もよりつかない。

 癒しの聖女は反省しないだけでなく、ほかの聖女を殺して自分だけを聖女にしろと要求してきた。今回召喚した聖女だけならまだいいが、ほかの聖女たちにはすでに夫がいる。有益なスキルを持つ者も多い。

 未だに追い出したハズレ聖女に固執しているようで、一番にあの女を殺せとわめいている。どうしてもあの黒髪がほしいのだと。


 私のように黄金色に輝く髪が一番素晴らしいだろう! 美を理解しない女め!



「カラバ侯爵から予知の聖女様と結婚したいと申し込みがあり、聖女様もそうしたいと言付かっております」

「なんだと!? ……いや、予知の聖女はもう使えぬ。第三王子と結婚すれば城から出してやってもいい」



 カラバ侯爵は、いけすかない貴族だ。ゆるぎない権力がありながら、私になびかない。中立を気取っている。

 予知の聖女に与えた令息の中に、その家門の息子がいたはずだ。ベッドから出ない予知の聖女にずっと寄り添っていたと報告が上がっている。



「第三王子と結婚したのちに城から出ろと伝えろ。有益な予知を見る可能性は捨てきれん」

「拒否された場合は?」

「拒否だと? 許すわけがない」



 この執事はなにを言っているんだ?

 愚かな男を睨むが謝罪はなく、ただ黙って頭を下げただけだった。この執事には本当に腹が立つが、能力的に使えるので私が我慢するしかない。この私が!



「各領主様方から、こちらへ来るのを延期するとの文を預かっております。別のものが来るようです」

「癒しの聖女を恐れたのか!」



 各領主には、不具合で金庫が開けられないので政策確認に必須なもの一式を持ってくるようにと告げた。

 大事なものなので、領主が直接持ってくると聞いている。不満があるようなので、直接嫌味でも言いたかったのだろう。それも癒しの聖女のおかげでなくなったがな!


 いい気分のまま休憩しようとすると、ドアが激しくノックされた。

 ……この状況は、嫌な予感しかしない。



「失礼いたします! 結界の聖女様が城から出られました!」

「なに!?」

「ごっ、ご自身を結界で守ったままマジックバッグを奪い、大量の本と食料、衣服など様々なものを収納し、そのまま出て行ってしまいました……!」

「なぜ止めなかった!!」

「それが、結界に触れた者が次々と気絶していったのです……! マジックバッグも最高級の、時間停止機能がついたものです。追跡しておりますが、誰も手を出せません!」

「すぐに追え! すべてを取り戻せ!!」

「騎士団への命令をお願いいたします!」

「駄目だ! 私の身を守る者がいなくなる!!」

「そんな……!」



 騎士団は王の盾であり剣だ。役に立たない聖女のために、私の身に危険が及ぶようなことは避けなければならない。



「気絶防止のアイテムがあったはずだ!」



 ほかにも、対象をその場に拘束するアイテムなどがあったと記憶している。数は多くないが、質の良いものを作っているアイテム職人がいたはずだ。



「その職人のアイテムは、最近王都に入荷しておりません」

「脅してでも作らせろ」

「その職人は謎が多く、工房すらどこにあるかわかりません。美貌からエルフだと思われますが、エルフはアイテムを作りませんので」

「残っているアイテムを探せ!」

「かしこまりました」

「アイテムが見つかるまでの間、冒険者にでも相手させておけ」

「王都に冒険者は少なく、今はB級しかおりません。A級がいましたが、先日王都を出ていったそうです」

「使えぬ!!」



 ずっと続く混乱に、頭がどうにかなりそうだ。頭痛がひどい。

 薬を飲もうとすると、またもドアがノックされ使用人が入ってきた。



「癒しの聖女様がこちらに向かっております!」

「私は席を外す!」



 癒しの聖女は、ずっとハズレ聖女を望んでいた。私がハズレ聖女と契約を結んで手出しが出来なくなったから逆恨みしているのだ。王たるこの私を!

 聖女に醜くされた令息は、未だにそのままだ。本来ならば私の頭痛を癒すべき聖女なのに、逆に醜くしようとしてくるかもしれぬ。むしろそちらの可能性が高い。


 足早に勤務室を出て、姿を隠す。

 くそっ、私が部屋を追い出されるなど……! 覚えていろ、癒しの聖女め!



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