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温泉聖女はスローライフを目指したい  作者: 皿うどん


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傾いている心

 おじいさんがいた部屋の近くの一室で、そわそわと朗報を待つ。私の温泉を鑑定すると、きちんと「ポイズンアリゲーターの毒を治す温泉」になっていた。

 私たちはそこで部屋を出たので、そこからヴィンセント達がどうしたのかはわからない。最初に通されたのとは違う部屋に案内され、5人の騎士らしき人が私たちについている。

 何かあったら私たちをバッサリということだろう。


 大丈夫だと思っているけれど、不安は消えない。そわそわと待っていると、乱暴にドアが開いた。

 思いっきり体がビクついてしまって、横に座っていたエルンストに体当たりしてしまった。私を守るようにレオが立ち上がる。

 入ってきた騎士は、息を切らせて私を見つめた。



「イゴール様が、いっ、意識を取り戻しました……! すぐに来ていただけますか?」



 呼びに来た騎士さんの後ろを、早足でついていく。

 イゴールが寝ている部屋に到着して騎士さんがノックをすると、中からしっかりした声が聞こえてきた。ヴィンセントともバートとも違う声。

 ゆっくりとドアが開かれ、部屋へ足を踏み入れる。ベッドには、起き上がってこちらを見ているイゴールがいた。



「恩人をこのように出迎えて申し訳ない。寝たきりで体が衰え、立てないのだ」

「どうぞお体を第一に考えてください。私はサキと申します」

「私はアグレル家の前当主、イゴール・アグレルだ。解呪していただき、感謝する」



 イゴールが深く頭を下げる横で、ヴィンセントとバートも同じようにしている。

 イゴールの受け答えはしっかりしていて、体がふらついていない。温泉が効いたことに、心底ほっとした。



「頭を上げてください。今、どのような状態ですか?」

「それはこちらから説明いたします」



 イゴールの横に立っている男性が進み出る。私の温泉を鑑定していた男性で、スキルが鑑定だと言っていた。凛々しい顔立ちの男性は、きりっとした顔で説明してくれた。



「改めまして、私の名はスヴェンと申します。イゴール様の状態を鑑定いたしましたところ、イゴール様の呪いは解呪されていますが、三日間のみとなっています」



 険しい顔をしたスヴェンやイゴールが安心するように微笑みかける。三日ごとに温泉に入らなければ、また元の状態に戻ると思っているはずだ。

 エルンストを見上げると、私が何を言おうとするかわかったのか、すっと一歩出てくれた。



「こちらのエルンストは、最近過労で倒れました。私の温泉に入り効果がきれた三日後には、よく効く薬を飲んだような状態になっていました。イゴール様は、解呪スキルで徐々に回復に向かっている状態と同じになっているのではと推測しています」

「なるほど……。三日後にもう一度鑑定をしてみます」



 最後にもう一度イゴールにお礼を言われてから退室する。しばらく寝たきりだったのだから、かなり疲れているはずだ。

 それから私たちは、温泉の効果がきれるまでお城にいることになった。それぞれ広い客室を使っていいと言われ、使用人までつけてくれると言われたところで少し揉めた。



「俺はサキの護衛だ。ほかの部屋にいると守れない」

「その通りです。ですがレオと二人きりなのはあまりよくないので、私も一緒にいることにしましょう」

「待て、僕だけひとりは嫌だ」



 そう言われても、異性と一緒の部屋で休むのは抵抗がある。さらに、ヴィンセントが厚意でつけてくれた使用人もまだ信用できないと言われれば、確かにと思ってしまう。

 王都での使用人……というかお城にいる人たちは、リラとエルンスト以外いい思い出がない。

 イゴールの解呪をしたからいい扱いを受けているけれど、解呪したからこそ命を狙われてもおかしくない。


 四人で考えた結果、使用人は断り、客室と繋がっている使用人の部屋で私以外の三人が寝るということに決まった。

 最初は私が使用人の部屋で寝ようとしたけれど、女性にそんな扱いはできないと猛反対された。あと、大きいとはいえベッドが一つしかないので、三人で寝たくないと言われた。使用人の部屋には一人に一つずつベッドがあるのだからそちらがいいと言われれば、その通りだ。


 それからは魔物除けの温泉を出して本当に効果があるか試したり、パーティーに出たり、イゴールやヴィンセントと話したりしながら過ごした。

 魔物除けの温泉はきちんと効果があったので、たくさん出して自由に撒いてもらうことにした。急いで街を囲むように側溝を作っているとのことで、最善のスキルを持つエルンストや、たくさんのアイテムを作っているギルは大活躍らしい。



「久しぶりに二人きりだな」

「そうだね。レオとデートした日が、すごく昔に思えるよ」



 午後のやわらかい陽射しの中、レオとふたりでティータイムを楽しむ。レオが食べているのは大きなお肉をはさんだサンドイッチで、みるみるうちになくなっていく。



「なあ、サキ。俺が言ったことを覚えてる?」



 日の光を浴びたレオは、それはそれは綺麗に笑った。



「サキは俺の一番大切な人だ。きっと、ずっと変わらない。それは忘れないでくれ」

「……うん」

「サキは俺たちを格好いいとか綺麗とか言ってくれるけど、この世界の男は整った顔が多いんだ。女性と結婚できるのはそういう男が多いだけだから、サキは引け目なんて感じないでくれよ。俺たちにとって、サキは世界一可愛いんだから」



 喉がつまって、すぐに返事はできなかった。

 ただ、レオの言葉が嬉しい。そう言ってくれるレオだから心が揺れ動くのに、レオにはそれがわからないらしい。

 少し笑ってから、自分の心を肯定するように頷いた。



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