『証言者は語る』
+++ 証言者、近所の住人 +++
錫蒔さん?
あぁ、あそこのお家はねぇ~?
ご主人はちょっと気難しいけど、奥さんは控えめで穏やかな人よ。
今は娘さんと三人で暮らしてて、まぁこの娘さんがきれいな方なんだけど、いい年してまだ独身なのよ!
実はさぁ、昔お姉さんが子ども残して自殺しちゃってね? その子の面倒を、ずーっと見てきたのよ。ほんと、良い娘さんでしょ?
なのに、それで婚期逃しちゃって気の毒よねぇ。どこまでも奔放なお姉さんの尻拭いだもの。
え? お姉さん?
そうね……年は少し離れてたわ。
とにかく荒れた子でね、毎日妹さんに怒鳴ってたのよ。
それで高校生のうちに家を飛び出して、音沙汰ないと思ったらある日突然子ども抱えて帰って来たんだから、すごいわよね。
あの時は、大げんかだったんじゃない?
外にまで怒鳴り声がきこえてきたもの。
それで事故起こしたのよ?
ほんと、迷惑な話よ。
出来の悪いのがひとりいるだけで、家の中がめちゃくちゃなんだもの。
錫蒔さんたちも気の毒だったわ~。
+++ 証言者、錫蒔美琴の同級生 +++
はい、いらっしゃ……え、警察?
……うちに、なんのご用ですか? 商売の邪魔なんですけど……。
は? 美琴のこと? 今さら?
あの時、散々訴えたのに無視したくせに、虫がいいんじゃないの?
……息子さんが……? そう……。
――あの時も言ったけど、美琴は無理心中なんかしない。
美琴は実家と縁を切りに来たんだもの。
ここを出て、息子さんとふたり東京に行くって。知り合いが、当時東京にいたらしいの。
美琴は、詳しいことは言わなかったけど……多分、息子さんの父親が待ってたんだと思う。妹に知られたら面倒になるからって言ってたもの。
――そう、妹。
美琴が家を出たのも、息子さんが生まれてからも隣の市で母子二人暮らしだったのも、全部あの頭のおかしい妹のせい。
あの妹、美琴が目を離した隙に、まだ小さかった息子さんを連れ去ろうとしたり散々だったの。
縁を切るって決めたのは、そういうことが度重なったから。
だから……おかしいのよ。新しい生活を始めようとしていた美琴が、心中なんてあり得ない。
当時警察にも何度も言ったんじゃない……!
+++ 証言者、アパートの大家 +++
え? 美琴ちゃん?
あら~、懐かしい名前だねぇ。
いつも明るくて、子煩悩なお母さんで。
いつだったかなぁ、息子の祈君とふたり、東京に行くって言って引っ越したよ。
最後まで丁寧で、いい親子だったよぉ。
あれ?
お兄ちゃん、もしかして祈君かい?
まぁ~、大きくなったねぇ!
お母さんは元気?
「すみません、母は少しボケていて……。当時の事故は、私も覚えています。母とニュースで知ってショックを受けましたから……」




