表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
44/86

42

(なんでこんなことになったんだろう)


 祈は遠い目をして現実から逃げたくなったが、そうもいかない。


(さっきから、圧がすごい……)


 目の前に仁王立ちする男のせいで、心は悲鳴を上げっぱなしで逃避する暇もないのだ。


「おい、悪食探偵。一体なんの用だ」


 仁王立ちする圧のすごい男とはすなわち、笹ヶ峰刑事だ。

 獏間は祈の相談を聞いた後、名案があると言ってどこかへ電話をかけ……そして、笹ヶ峰を事務所へ呼び出したのだ。


「こっちは暇じゃねぇんだが?」


 当然、笹ヶ峰の機嫌は悪い。

 いや、この刑事が上機嫌なところなど、祈は見たことがないのだが。


「柄が悪いなぁ、笹ヶ峰刑事は。用があるのは僕じゃなくて、スズ君だよ」

「あぁ?」


 笹ヶ峰の鋭い目が、祈の方に向けられる。


「忙しいところ、すみません」


 間髪入れず頭を下げると、その目が少しだけ和らぐ。


「なんだ、坊主か。どうした?」

「あの、笹ヶ峰さんは、変わった事件を扱う部署の人だって、獏間さんが」

「まぁ、そうだな。それで?」

「十年前に、この町でそういう系統の事件はなかったか、聞きたかったんすけど」


 束の間和らいでいた笹ヶ峰の視線が、再び鋭くなる。

 若干の険しさすら含んでいて、祈はやっぱり無理だったかと冷や汗をかいた。


「すんません! 秘密ですよね、そういうのは!」

「なんだって、そんなことを知りたがる?」

「スズ君は、十年前に事故に遭ってるんだよ。で、それ以前の記憶がすっからかん。だけど、こうして僕の助手が務まるくらいの特異体質だ。当時の事故にもなにかあったんじゃないかって、調べたがっているのさ」


 獏間はニコニコと笑顔で、流ちょうに語る。

 

「あ、羊羹食べる?」


 ついで、新しい羊羹を笹ヶ峰に向かってちょいちょいと振って見せた。


「……賄賂のつもりか」

「まさかー。善意だよー。いらないなら、僕が食べるからいいさ」

「うさんくせぇ」


 吐き捨てた笹ヶ峰は、獏間を放置し再び祈をにらんだ。

 視線が戻ってきて、祈はぴしっと居住まいを正す。


「おい坊主。お前、これから時間あるか?」

「え、ぁ、はい」

「じゃあ、ちょっと付き合え」


 突然の誘いに、獏間は羊羹の包装を解こうとした手を止めた。


「あ、じゃあ、僕も行く」

「お前は呼んでねぇよ!」

「笹ヶ峰刑事、この子は僕の助手だよ。雇用主として、ちゃーんと面倒を見ないとね!」

「……お前に、面倒見なんていうモンがあったとは、驚きだよ」


 嫌そうに笹ヶ峰が言うものの、どこ吹く風で獏間は頷いた。


「そうだね。僕もだよ」

「――っ」


 その返事は予想外だったらしい。

 笹ヶ峰は驚いた表情を浮かべると祈と獏間を見比べる。

 それから舌打ちすると「ふたりともさっさと来い」と事務所を出た。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ