第61話 喧嘩
私は全速力で、店の外に出たあと、足のリミッターを外して命の限り走る。そして、店から少しはなれた場所にいる隼人に向かう。
「赤城さ…!っぐぇ!」
赤城さんという前に、凄いスピードで抱き締められ、そしてそのまま凄い力で締め付けられた。
一瞬、何が起こっているのか分からない私に、耳元で赤城さんの重低音ボイスが響く。
「茜ちゃぁん?」
あ、ヤバイ。赤城さんが私をちゃん付けするときはヤバイ時だ。基本的にブチキレてる時だ。
私は、条件反射ともいうべきか、自分の口を手で覆い隠した。
フニッ……
そして、その反射は正解だったといえよう。
赤城さんは、私が口を覆い隠している手に唇を当てていたんだらから。
「手ぇ……どけろ。キス出来ないだろ」
なんで、私は鬼と悪魔と破壊神を合体させた男にこんな理不尽なことを言われているんだろ。
警察は何をやっているんだよ。助けてくれよ、治安を守ってくれ。
「無理やりキスしたら、強制猥褻罪、しかも未成年ならば強姦罪にもとわれますよ」
口で隠しながら、私はそういった。
「恋人同士なんだからいいだろ」
「性行為合意年齢は13以上からですし、恋人でも合意が無ければ訴えれます」
そう言えば、先輩はすんなりと私を下ろしてくれた。よかった……父が弁護士でよかった。ちゃんと調べててよかった。
「で?なんで浮気したんだ?」
「浮気じゃないです」
明らかに疑うような眼差しを私に向けるので、私は必死に弁護する。
「いいですか?私は浮気してませんし、相手も高校生か大人くらいの歳です。浮気とかできませんし、そんな魅力とかないでしょう」
「俺は茜が好きだぞ?」
「それは例外です。幼児愛好趣味なだけです」
「いや、俺は茜を女として愛してる」
真顔でそんなことを言い出した怖い人に対処出来る法律が早急に作ってほしいと私は願う。
「今すぐに泣きじゃくりたい気持ちではありますが、一旦置いといて、私は浮気してません」
「分かってるよ」
アッサリと、まるで当たり前のように赤城さんはそういった。
「あんなんで、浮気とかいうほど俺も小さくねーよ…」
……じゃあ、さっきの理不尽な恐怖体験はなんだったんだよ。つーか、嘘だろ。
「ただ……少しだけ監禁してもいいか?」
「嫌に決まってるでしょ!?」
なんてことを言い出すのだろう。この怖い人は。何より怖かったのは、若干本気っぽい感じがした。
気のせいだと思いたい。
「もういいです!赤城さんだって女性にモテモテで肉姉さんと婚約までしてた癖に!もう知りませんから」
「おいっ……茜」
私は恐怖やら何やらで、ついにキレてしまった。そしていい逃げをするように走っていった。
追いかけられるかと思ったが、案外すんなりと逃げ切ることが出来た。
ある程度まで走り、私はポー……っと空を見上げる。
「……チビッ子?…チビッ子じゃねーか?」
後ろから声が聞こえ、振り向けば龍馬さんがいた。
無言で私はポカポカと龍馬さんを叩く。でも龍馬さんの体が凄い固い。この人はどういう筋肉してんだよ。
「どうしたんだ?いきなり」
結構強く叩いたのに、全然答えてる様子がない。苛立つ。
「色々とありまして、喧嘩をしまして、その原因がアナタで、私は悪くないもんで、怖いこといわれて、監禁されそうになって、しかも結構本気でいわれて、で、私の頭は豆腐常態……」
「まてまてまて!何となく怖い上に意味がわからん!つーか、蹴るのやめろ!!それは少し痛い!」
殴るのがダメならばと、足にキックしまくってたら、流石にダメージは有ったみたいだ。
「訳ありか……」
龍馬さんはそう呟いて私の頭に手をおき、そのまましゃがんで私の身長に合わせた。
龍馬さんがしゃがんだ大きさ=私の身長。ということから、龍馬さんのデカさが分かるだろ。
「この近くに、俺らの溜まり場があるから、ちょっとこい」
龍馬さんは立ち上がり、私の手を握ってあるいた。




