第27話 茜の父、玲二視点
俺の名前は玲二だ。
ハッキリ言って性格は悪い方だし、ひねくれているし、本心から笑ったことなんて殆どない。
そもそも人間が嫌いで、弁護士を目指したのも、大嫌いな人間を合法的に不幸に出来るという理由からだ。
まぁ、そんな俺にも守りたくて愛する人間は存在する。
「俺にとってアレは、鶴美の精神を安定させる道具でしかない」
そういった瞬間、俺は赤城財閥の御曹司にぶん殴られた。
体重をのせた、物凄く重い拳が俺の頬に激突し、そのまま近くの木にぶつかった。
「グッ……カハッ!!」
背中から叩き付けられて、俺は肺にある二酸化炭素と酸素を全て奪われ、目がチカチカした。
「テメェ……ふざけてんじゃねーぞ……」
赤城 隼人がこっちにきて、胸ぐらを掴まされた。
怒っていると、誰が見ても分かる。そりゃそうだろう、さっきの発言は誰が聞いたって最低だ。
「茜は道具なんかじゃねぇ!!一人の人間だ!!自分勝手なアンタの奥さんを安心させる為の人形でもねーんだよ!!」
分かっているさ、そんなこと。
アレだけ出来のいい娘が、道具な訳がない。人形だと思ったこともない。コイツの怒りは当たり前だ。
と、頭では理解しているし、この青年の怒りも最もだと思う、それに仕事相手のご子息で、何より相手は高校生だ……
んなこと知るか。
俺は青年の後ろ頭をガッと掴み、そのまま勢いよく、そいつの額に頭をぶつけた。
「グエ!…っ…」
「鶴美の悪口をいうな。あいつは単に娘と一緒にいたいと思っただけだ。離れたのだって、親戚中から言われて、死にそうな思いで手放したんだ」
俺はさらに青年の顔に向かって殴る。
結構な力で殴ったが、青年は倒れずこういった。
「アンタが守ってやれば良かったんじゃないか!!」
日本刀で心臓を貫かれた感覚に支配される。
「それが無理なら憎まれるくらいしろよ!!アンタは茜から親を奪っただけじゃなくて逃げたんだ!!
恨まれることから!!怒りを持たれることから!!愛してるだの仕方がなかっただの……子供に気を使わせてどうすんだよ!!諦めさせてどうすんだ!!」
それを言われるとキツい。
分かっているさ、何もかも理解している。
でもなぁ……
「幸せだったんだよ……」
俺は、無意識に本当に何も考えずにポツリといってしまった。うぁ……最悪だ、30越えたオッサンなのに……
「茜と口喧嘩して、鶴美がアホなことして、俺が止めて、平凡で平穏で、幸せだと……俺が思ったんだ」
こんな日々が続けばと思った。
茜はきっと不幸ではないとも思った。
バカだとは思う。
そんな俺のエゴで子供を苦しませていたんだから。
臆病者だと思う。
俺の子供だと完璧に分かる俺に似た顔で、鶴美の瞳で恨まれたら、多分死ぬと思う。
「おい、青年……俺を殺せ」
あぁ、もう本当に死にたい。恥で死ぬなら今だろう。
自分勝手に茜を連れ戻そうとして、最低な発言をして、高校生に殴られて、説教されて、雰囲気に酔って30代のオッサンが幸せだのなんだのと泣きながら喋ってる。
死にたい。
「よし、死ね」
青年はポケットから拳銃を取り出して、俺のこめかみに銃口を当てた。
何でそんな物騒な物をもっているんだとか、何か手馴れてないか、銃刀法違反だろと思うところだが、自殺願望がマックスになってる俺はどうでもよく思った。
青年も瞳孔が開きっぱなしで、殺気立ってるから脅しではないのが分かる。
引き金に指をひっかけて、本気で俺を打とうとしてた時……
「アホかお前ら!?意味分からんけど何してんねん!!」
茜が関西弁で絶叫していた。




