英雄がいるので。②
ガキィッ
イルヴァリエが俺の左の一撃を受ける。
弾かれて繰り出される剣を、今度は俺が右でいなした。
ディティアのようにはいかないな、と冷静に分析する。
徹底的にボコボコにされた時、本当に舌を巻いた。
彼女は、力があるわけじゃない。
だから、速さを活かし、うまく流すことを得意としてる。
俺にはバフはあるけど、そこまで重ねることも出来ない。
だから、ディティアに学ぶべきだ。
「ふっ…!」
懐に潜り込み双剣を振るうと、イルヴァリエはロングソードを構えたまま後ろに跳ぶ。
俺は一気に詰めようとして、咄嗟に引いた。
その空間を切り裂くようにイルヴァリエの剣が振り抜かれる。
一旦距離を取ると、イルヴァリエが真っ直ぐ剣を構えた。
「次はこちらからだ」
「望むところだっ」
俺は、双剣を腰のあたりで構える。
ひゅ…!
……速いッ!
イルヴァリエは一瞬で俺に肉迫。
その一撃を双剣を2つとも使って受け止めた。
いなせない強烈な一撃が、腕にじーんと熱をもたらせる。
「っ、は!」
俺は剣を受け止めたまま身体を捻り、蹴りを繰り出す。
「な、くっ」
イルヴァリエが驚いて飛び退いた。
また距離が開く。
「……剣以外は騎士団では禁止か?」
俺が口の端を持ち上げると、イルヴァリエは鋭い瞳のままにやりとした。
「そうだ。だが、そうか。これが実戦なのだな」
「よし、それじゃ遠慮無く」
また踏み出す。
剣と体術を交えて闘うのが、元々の俺のスタイルだ。
バフがメインとは言え、自分が闘えないと意味が無い。
それが冒険者である。
何度も、何度も、打ち合う。
少しずついなせるようになってきて、イルヴァリエも俺の右の蹴りを左腕で凌いだりするようになってきた。
イルヴァリエは体勢を低く保ち、懐に入り込まれるのを警戒しているようだ。
「はあぁっ!」
そこに、敢えて剣戟を繰り出す。
右、左、たまにリズムを変えて。
ガッ、ギィンッ
狙うは、イルヴァリエが反撃に転じるその瞬間である。
イルヴァリエは速い。
速いが…。
ガツッ、ギギィンッ!
もっと速い風を、俺は知ってる。
何度も、何度も、叩き伏せられて。
身体が覚えている。
…ボーザックがイルヴァリエと剣を交えるその前の試合。
ディティアが言っていた。
彼女が攻撃の隙を作るときは、誘っている時だよって。
使わない手は無かった。
だから、敢えて。
俺は、リズムを単調にしていく。
右左、右。
……イルヴァリエなら、この隙に気付くはずだ。
「……そこだっ!」
掛かった!!!
右を繰り出した瞬間、イルヴァリエが俺の右側に大外から斬りかかった。
それを。
「ふっ…!」
そのために、左手が残ってんだよ!!
心の中で叫ぶ。
身体を時計回りに捻って、左の剣でロングソードをいなす。
その勢いのままに回転して、俺は右脚を振り抜いた。
「く、おぉっ!?」
ゴカァッ!!
イルヴァリエの右側頭部へのクリーンヒット。
堪らず転げたイルヴァリエに瞬時に詰め寄り、双剣を突き出す。
「はっ、はぁっ、…チェックメイトっ」
「くっ………降参だ!…逆鱗のハルト!」
イルヴァリエが身体を投げ出して叫ぶ。
うわあぁーーーっ!!
「ッ、おぉ!?」
鳴り響いた歓声に、俺は飛び退いた。
振り返ると、わあ…市場の酔っぱらい達が大盛り上がりしている。
空に舞う紙は…イルヴァリエに賭けた人の持ち札か。
すっかりシャットアウトしていたらしい。
「勝者ッ!えーっと、逆鱗の……えええっ、お兄さん、まさかあの逆鱗のハルトぉ!?!」
ルゥナが驚愕の顔をしたのを見て、俺は笑った。
「ダークホースだろ?」
******
少しの休憩が取られることになって、俺はアップを始めたボーザックと休んでるイルヴァリエを広場に置いてグラン達のところに戻った。
「ふふふー、ハルト君!見てたよ-!」
ディティアは上機嫌。
「やるじゃねぇかハルト!」
グランに肩を叩かれる。
「1回だけなら通用すると思ってたんだよなあー、次はたぶん、負けると思う」
グランは、それを聞いてにやりとした。
「負けねぇよ、お前、まだバフかけてなかったくせに」
「へへ、まあな!」
「ハルトは何で先に戦ったのかしら?」
ファルーアが薄いピンク色のカクテルを口にしながら、妖艶な笑みを浮かべる。
周りの客がちらちらとそれを窺っているのに苦笑して、俺は答えた。
「ボーザックの後だと、俺が遅く見えるだろうから。そうすると、わざと作った隙も意味ないかもしれないなぁってさ」
「最初からバフは使わないつもりだったのね」
「……うん、そこは…なんていうか、意地」
俺は運ばれてきた辛い酒を皆とぶつけてから、一気に流し込んだ。
身体がかあっと熱くなる。
「っ、くぅーっ、効くなこれ!」
「ボーザックも剣術闘技会でバフ無しで戦ってたんだもんねぇ」
ディティアがふふっと笑った。
「それもあるなー」
「あとはぁ、シュヴァリエの弟だしねぇ」
「よく分かってるなーディティア」
「ふふふ」
本当に楽しそうなのでよしとしよう。
俺は残っていた料理を摘まみながら、広場を仰いだ。
「さあさあ!次はこの2人!賭けた賭けたーーー!」
威勢のいい掛け声。
俺は、ジールを出してボーザックに突っ込んだ。
「負けんじゃねぇぞー!」
グランがグラスを掲げて野次を飛ばす。
「イルヴァリエもがんばれぇー」
ディティアがきゃっきゃと手を振った。
テーブルの下で丸くなっていたフェンが、鼻先で俺の足をぽんと押す。
労いの気持ちだ、と俺は思った。
「さんきゅー、フェン」
さて、ボーザックはどうするかな。
楽しませてもらおう。
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