英雄がいるので。①
収穫場の街、ニルス。
朝採れ野菜達がずらりと並べられた、大きな市場がある街。
夜にもなると、今度は残っていた野菜達を料理して巨大な酒場となる。
夕方を過ぎたくらいに到着した俺達は、数々の料理となった野菜を肴に乾杯する人々を眺めた。
「すげぇな」
グランが唸るほど、大きな酒場だ。
そこに集うのは農作業を終えた農夫達。
そして、ちらほらと冒険者もいる。
そんなニルスには、小さなギルドがあった。
「いらっしゃい!」
白シャツに黒パンツのギルド員がひとり、カウンターでにこにこしていた。
まだ10代に見えるショートカットのギルド員は、愛想良く話し掛けてくれる。
「お兄さん達、今日の宿探し?」
「そうだ。馬は街の入口に繋いだ」
「おーけー、馬はそれでいいよ!……そっか、魔物も一緒なんだね……うーん。じゃあギルドに泊まってくれる?」
「あれ、魔物が入れる宿はないのか?」
聞くと、ギルド員は困ったように頷いた。
「そうなんだ。ニルスでは農夫達が自宅を民宿代わりにしてるんだよね」
「なるほど、宿ってわけじゃねぇんだな」
「うん、髭の兄さん、話が早くて助かるよ。一応簡易だけどベッドもあるから。ご飯はついてないから、市場で食べてね!」
そこで、イルヴァリエが前に出た。
「少年」
「んあ?……お兄さん、少年ってあたしのこと?」
「……あたし?」
「うん、残念ながら少女だけど?」
「…!すまない、胸がないからつ、イッ!?」
ファルーアがイルヴァリエの足を容赦なく踏み付けたのが見えた。
「ごめんなさいね?世間知らずのお坊っちゃんなの」
「ふうん?確かにそれっぽい顔してんね!」
ギルド員はふふっと笑って、言い切った。
「胸が無いとか言っちゃうところがやばいよ、あんた紳士にはなれないね!」
イルヴァリエが、固まった。
ボーザックが笑いを堪えている。
「それで?何が聞きたいの?」
「あ、ああ…その、手合わせをするのによい場所が無いかと」
「ああ……そんなら市場の前でやりなよ!酒の余興にいいね」
「……余興?」
眉をひそめるイルヴァリエ。
嫌な予感しかしないんだけど…。
ギルド員は少し考えた後で、うんと頷いた。
「よーしいっちょあたしが用意したげるよ!何時からにする?」
俺達は顔を見合わせて、もう逃げられないことを悟った。
******
軽く食べて腹ごなしをした後。
ギルド員…改めルゥナが、市場の真ん前に煌々と照らされたステージを用意した。
円形の広場の周りを均等に松明で囲み、ちょっとした闘技場みたいだ。
「はぁーいニルスの皆さん!今日は余興があるよ!」
ルゥナが声を掛けると、飲んでいた客達がわあっと歓声をあげた。
酔ってる人は基本的にのりがいいと思う。
「ここにいるのは異国の冒険者!この中から何人かが決闘するよ!」
「いいぞーやれー」
野次が飛ぶと、ルゥナは上機嫌で笑った。
「おーけーおーけー!そんじゃあいこう!まずは選手の紹介だ!」
「すごいノリだねぇ」
ディティアがふわふわと笑っている。
「…飲んでるのか?大丈夫?」
「もちろんー、ハルト君見てるからね!」
ふふふ、と笑いながら、彼女はぽんぽんと俺の肩を叩いた。
グラン達はテーブルを1つ確保して、見ていると言う。
俺とボーザック、イルヴァリエは、ルゥナに招かれるままに広場に向かった。
「まずは紳士に見えてちょー失礼な世間知らずのぼんぼん!イルヴァリエ!」
「失敬だな…」
「次に小柄ながらに背負うのは大剣!旋風を巻き起こせるか!ボーザック!」
「よろしくー!」
「そしてそしてー!弱そうな感じに見えるけど、これってダークホース?ハルトーー!」
「………」
わあーーっと盛り上がり、拍手が巻き起こる。
「今日はイルヴァリエが2戦やるよ!さて、初戦はどっち?」
「私はどちらからでも構わん」
「どっちにする?ハルト」
「うーん」
俺は思うところがあって、ちょっと肩を回した。
「ん、俺から行くよ」
「そっか!じゃあとりは任せてよー」
「おう!任せた!」
俺達は拳をぶつけて笑った。
「おーっと!いきなりのダークホースだー!さあさあ皆さん!お待ちかね!!ひとくち2ジール!賭けた賭けた-!」
「って、ええ、賭け事なのか!?」
「あったりまえでしょお兄さん!」
観客達も喜んで賭け始め、ルゥナの用意したバケツにジールが溜まっていく。
ひとくち毎に紙がもらえて、それを試合後に換金するそうだ。
「私!私ハルト君に賭けるー!」
ディティアがきゃっきゃと参戦。
グランも笑いながらジールを出す。
「おうハルト、負けたら酒奢れよ?」
「おいおい……」
イルヴァリエに集まっていく掛け金を見ながら、俺はため息をついた。
「はぁ。じゃあちょっと、やってみるか」
******
「では頼む、逆鱗のハルト」
「ああ。言っとくけど期待はずれでもがっかりするなよ?」
俺は双剣を抜いた。
ルールは、どちらかが降参するか、致命傷を与えるであろう一撃が想定された場合に勝敗が決する形とした。
ふう。
息を吐く。
1度目を閉じて、俺はゆっくりと息を吸った。
集中しろ。
……よし。
「行くぞ、イルヴァリエ…!」
バフをかけるつもりはまだ無い。
ディティアにあれだけやられたことも、正直相当堪えたけどさ。
今の自分が、どんな位置にいるのか。
俺は、それが知りたかった。
だから、闘おうと思ったんだ。
俺は、地面を蹴った。
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