7-4 禁じられた一手
アークが戦っている。翼の一部を削いだようだったが、ダメージを与えられている様子ではない。
エリックは拳を握りしめた。
このままアークに全てを押し付けてしまうわけにはいかない。
震える体を叱咤して、走り出す。剣を握りしめたまま、息を吸い込んだ。
そして。
「おい、間抜け! こっちだ!」
エリックは大きな声を出した。《ディスター・クイーン》の耳がピクリと反応して、エリックを振り返った。
《ディスター・クイーン》の攻撃対象が間違いなくエリックに絞られた。翼の攻撃が、エリックめがけて飛んでくる。退路は断たれた。やるしかない。
震える拳うを痛いほど握りしめ、もう一度息を吸い込んだ。酸素が喉を焼く。
エリックは目を瞑って、静かに祈りの言葉を口にした。
《彷徨える愚者 我ここに願う
万物を灰に帰す業火よ、
眼前に座する仇敵を薙ぎ払え
幻獣の炎哮!》
そう言って目を開いた。
しかし、魔法は発動していなかった。
「なん、で……?」
エリックは呆然としてしまった。銀遊士の言葉が脳裏を過る――過信はするな。何度も言われた言葉だった。
いまさら思い出しても、意味のないことで。
エリックは動きを止めてしまった。鋭い鍵爪が迫ってい来るのを呆然と眺めることしかできない。
「馬鹿野郎っ!」
そんな言葉が聞こえて、エリックは襟首を強く引かれた。




