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男爵令嬢の記憶が交差する  作者: まるねこ


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3/3

3 第二側妃予定の令嬢(シャリア視点)

「フラン、フラン」


 誰かが私を呼んでいる……?


 名前を呼ぶ声に先ほどまで見ていた情景が遠のいていく。


 私、は、そう。フラン。


 フラン・ノール。十八歳。ふわふわと柔らかく薄い色した赤い髪にくっきりとした二重の美女。


 そして国一番の金貸しで有名なノール男爵の娘だ。我が家は清く正しく金貸しをしている国内屈指の裕福な家だ。


 兄が二人いて、二人ともとても金に細かい。でもそのおかげで私は他の貴族に比べ裕福な暮らしをさせてもらっている。


 夢から現実に引き戻されるように、ゆっくりと目を開けた。


「フラン、大丈夫起きた?」

「お、お母様?」

「ああ、良かったわ。貴女、お茶会の席で倒れたのよ?」


 周りを見ると、白を基調とした壁に落ち着きのある家具。見慣れた自分の部屋で、私は夜着を着ていた。


「わざわざここまで運んでいただいたのですか?」

「どうしたの? その言い方。フランらしくないわね。お茶会の席で何か言われたの? ああ、だから倒れちゃったのかしら。


 貴女は目覚めないし、大変だったんだから。お医者様に診てもらったけれど、原因不明だって言われちゃうし、困っていたのよ」


「目覚めない? お母様、私はどれくらい寝ていたのですか?」

「丸一日、寝ていたわね。まあ、目覚めたみたいだし、良かったわ。キャデルも心配していたのよ」


 私は母との会話で少しずつ夢と現実の区別がついてくる。


「お父様が? 槍でも降るんじゃない?」

「そう言わないであげて。彼はああ見えてフランのこと心配しているのよ。とにかく元気そうで良かったわ。食事はここへ運ばせるから今日はゆっくり休みなさい」

「はい」


 母は軽く手を振り、部屋を出て行った。


 えっと、さっき見ていたのは夢だったの?


 それにしてはとても現実的な感じだった。あれは前世というものなの?


 でも、思い出したのは苛々させられる出来事の一部だけ。


 詳しく思い出そうとしても霧がかかったように思い出すことができない。


 くっそう。

 何だか苛々する。

 なんであんなところを思い出したの!?


 私は先ほどの夢のことを考えながら窓の外を見るともう既に外は暗くなっていた。


「お嬢様、食事をお持ち致しました」

「アーシャ、ありがとう」


 アーシャは私専属の侍女で、ここに来るまでは孤児として教会で過ごしていた。教会で過ごした孤児を引き取り、侍女や従者として教育し、働かせている。


 他の家は使用人に休日や給料を与えない場所も多いけれど、我が家はその辺りは超優秀なのよ! 金貸しをしている上でイメージや信用は大事だからね。


 私は食事をした後、またベッドに戻った。


 あー胸糞悪い夢だったわ。


 今からはもういい夢を見るしかない!

 では、おやすみなさい。



 ――〇


「彼女が第二側妃のフローラ様ですか」

「ええ、そうらしいわね。今回、私の意見は通していないの。キルディッドの好みだけで選ばれた令嬢よ」


 私もマルティディア様と扇子で口元を隠しながら隣同士、小さな声で囁き合う。


 あれから私たちの間に険悪なものは減った。


 キルディッド様の態度にマルティディア様にも思う節があったのだろう。


 今日はとうとう王宮の一室で第二側妃候補が紹介される日が来たのだ。謁見の場にはキルディッド様の他に宰相や大臣などの重役ばかりが出席していた。


 心なしか大臣たちも落ち着かない様子だ。何かあるのかしら?


「ホーダー男爵、並びにフローラ様が到着しました」


 従者の言葉に一同口を閉じ、視線を向けた。


 ホーダー男爵の横に並んで歩くフローラ嬢に「ん?」と何かを感じ取ったのは私だけではないようだ。


 陛下へに挨拶を終えた男爵はフローラ嬢の後ろに控えるように立った。


 フローラ・ホーダー男爵令嬢は、本来なら男爵位は爵位が低いため、側妃には選ばれないのだが、キルディッド様が一目ぼれして第二側妃として迎えられることが決まった。


 私やマルティディア様と違い、背の低い可愛らしい容姿をしている。金髪のストレートの髪が腰まで伸び、陶器のような白い肌をしていてお人形のようだ。


「マルティディア、シャリア、私の新しい妻になるフローラだ。仲良くするように」


 キルディッド様が私たちを牽制するように低い声で彼女を紹介する。私とマルティディア様はキルディッド様に冷たい視線を送り、口を噤んだ。


「「……」」


 私たちが口を開くことはない。これは爵位の低い者が先に挨拶をするのがマナーだからだ。


 だが、いくら待っていても彼女からの挨拶がないので、痺れを切らしたマルティディア様が扇子を仰ぎはじめた。


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